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天探女(あまのさぐめ) |
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= 黒 = |
「・・・・ったく、なんなんだよあいつは!」 天真は勾欄を拳でドン!と叩いた。 あかねが怨霊に体を奪われて3日目の夕刻。 鬼との戦いの後も行方の知れない妹を捜して外出していることの多い天真は、前夜 数日振りに帰ってきて、事の次第を聞いたのだ。 あかねのところへ乗り込んで、すぐに怨霊を追い出させようとするのを詩紋と頼久が 2人がかりで何とか止めた。 『今日は絶対、俺がついて行くからな!』 今朝は朝一番に、噛みつかんばかりの勢いで散策の供を願い出た。 だが、あまりにいつもと違うあかねの様子に、同行した頼久は怨霊退治よりも あかねと天真の仲裁に神経をすり減らしてしまった。 すでに詩紋や鷹通から話は聞いていたものの、あかねの記憶を利用して怨霊は 人の心の傷に塩を擦り込むようなことばかり言う。 今日出くわした怨霊は少しばかり手強くて、途中で『あかね』が出て封印をしなければ ならなかった。その時にあかねが心底申し訳なさそうな顔で謝らなかったら、天真は 途中で本当に切れていただろう。 「落ち着け、天真。今日一日の辛抱だ。明日の朝には泰明殿が来て怨霊を封じてくださる。 いや、あの怨霊が約束を守るなら、その前に神子殿に浄化されるだろう。」 怒りの収まらない天真につきあって、頼久は腕を組んで渡殿の柱に寄りかかる。 「怨霊の口約束なんざ、当てになるか!」 「あ〜ら随分ねぇ。そんなに疑うんなら、とっとと私を追い出せばよかったのに。」 上から降ってきた声に、天真と頼久はぎょっと顔を上げる。 単に袿一枚を羽織っただけ、というひどく艶めかしい姿のあかねが立っていた。 まだ濡れた髪から滴が滴っている。 風呂好きなあかねのために藤姫はあかねたちの世界式の湯殿を作ってくれた。 一日の散策を終えると湯船につかり、汗と埃を洗い流して。 それはあかねにとってかなり楽しみな一時だ。 こちらの世界の者には馴染みのないそれを、どうやら怨霊も楽しんだらしい。 ほんのりと上気した頬はこの上なく清らかなのに、ゆがんだ口元からこぼれる言葉は 腐臭を放つ。 「偉そうなこと言っても、『神子様』は絶対だもんね。残念ね、『天真君』? まぁ、あと一晩、歯ぎしりでも地団駄踏みでもしてなさい。 明日の朝には大事な神子様、返してあげるわよ。」 手をひらひらさせて2人に背を向け歩き去ろうとするあかね。 「おい、待てよ!」 天真は言うなり、ひらりと勾欄を飛び越えて渡殿に立つ。 あかねの肩を乱暴につかんで振り向かせ。 「好き勝手なこと言ってんじゃねーよ。俺がおまえに手を出さなかったのは、別に『神子様』の 命令なんかじゃない。」 「あら、じゃあ認めるの?神子様なしで『私』を追い出す力がないって。」 あかねの揶揄に天真はぐい!と袿を絞り上げる。 首元が閉まってあかねが顔をしかめる。 「天真!神子殿の御身だぞ、乱暴はよせっ!」 頼久の言葉にも動じない。天真はそのまま小柄なあかねの体を引っぱり上げた。 「俺がおまえに手を出さなかったのは、『あかね』に頼まれたからだ。 あいつが絶対自分で何とかするから明日まで待ってくれって言うから、俺は我慢してるんだ。 いい気になるな。 もしお前があいつとの約束を破ったり、明日の朝になってもごねてるようなら、俺はもう 容赦しねぇからな!」 普段は陽気な天真の瞳が鋭く光る。低く囁かれる恫喝に、あかねはにやりと笑い・・・・。 「・・・・・天真君、苦しい・・・・。」 天真ははっと手を離す。 「あかね?お前なのか?」 あかねはふぅっと息をついた。首をなで、すっかり皺が寄ってしまった袿の襟に眉を潜める。 「天真君、乱暴なんだから〜。・・・でも、ありがと。」 天真を見上げてあかねは微笑む。 急に湯上がりの香りが気になって、天真はあわててそっぽを向く。 「お前の無鉄砲は今に始まったこっちゃないからな!だけど、絶対、明日の朝までだ! 明日の朝、一番にお前んとこ行くからな!いや、いっそ、そいつが変な真似しないように、 今夜俺がお前の部屋で見張りを・・・・。」 「私を差し置いて、神子殿の部屋へ忍んでいくつもりかい?随分といい度胸だねぇ、天真。 命が惜しくないとみえる。」 誰、と問うまでもない。天真ががっくりと肩を落とした。 「だ〜れ〜が『忍んで』行く話してんだよ!何でもかんでも自分を基準に考えんな、この 色惚け中年が!」 振り向きざま投げつけられる悪口雑言にもどこ吹く風。 友雅は湯上がりのあかねに目を細めた。 「麗しい姿だね、神子殿。でもそのようなお姿は、私以外の男の目に晒して欲しくはないねぇ。 さ、局へお送りしよう。先ほど夕餉の膳が運ばれていたよ。」 間に立つ自分を清々しいほどに無視されて天真はため息をつく。 あかねの局に泊まり込みたいくらいなのは確かだが、まさか本当にやるわけにはいくまい。 今夜友雅が泊まっていくならそばに居るのはあかねがいやがる。 泊まらないなら、頼久が警護に就くだろう。何ならそれに同行してもいい。 天真はため息をつき、あかねの肩をぽん、と叩いた。 「じゃあな、あかね。俺も侍所に戻って飯食ってくる。・・・・怨霊にも、あのおっさんにも、 好き勝手させんじゃねぇぞ。」 天真の心からの忠告にあかねは複雑な笑みを浮かべた。そうしたいのは山々なのだ。 再び勾欄を身軽に飛び越えて、天真は去っていった。 それをちらりと見送って、友雅はいつも通り、満面の笑顔を浮かべてあかねに近づく。 「神子殿?」 「・・・・仲間の八葉にも随分信用されてないのねぇ、友雅さん?」 たちまち友雅の笑みが消える。軽いため息。 「・・・やれやれ。とことん君は無粋だね。恋人たちの逢瀬をそっとしておいてやろうとは 思わないのかい?」 「あら、私との逢瀬ではいやなの?」 「お話にもならないよ。・・どうやら今夜も、神子殿のお側には寄らせてもらえないようだね。 だがとりあえず、局までお送りしよう。」 「ご親切にどうも。さすがはタラシな橘少将。女の扱いを心得ているのねぇ。」 あかねを局まで送り届け、ちゃっかりそこで夕餉をともにして。 普段なら甘い一時になだれ込むところなのに、今日は座る場所からして廂端の円座だ。 左大臣家の女房が気を利かせて用意した酒を銀の酒杯で干しながら 友雅は気がなさそうに庭へと視線を投げている。 「随分居心地悪そうね。そんなに私と一緒にいるのがいやなら無理せず帰れば?」 あかねの膳も下げられて、今あかねの前に置かれているのはあまずらを少し溶かした 湯冷ましだ。 それを酒を楽しむように少しずつなめながら、あかねは足を投げ出して座っている。 そんな美味しそうなものをちらつかされて(ちらつかされなくても)黙って見ている 友雅ではない。だが、今日はちらりともその気になれないのだ。 目の前にいるのは確かにあかねなのに。本日何度目かのため息が形良い唇から漏れる。 「私が憑いてる神子様とは出来ないんだ? なぁに?ひょっとして、『穢れちゃった』とか思ってるわけ? やっぱなんだかんだ言ってもあなたも清らかな『龍神の神子』様がいいのねぇ。 まぁ、こんな後ろ盾も教養もない小娘、それぐらいしか取り柄がないもんね。」 カシン!と酒杯が折敷に叩きつけられた。 友雅の静かな目がたちまち怒りに染まる。 「・・・・言ったはずだよ?神子殿を侮辱することは許さない、とね。」 「おお、怖い。」 まるでそう思っていない仕草であかねはキャラキャラと笑う。 突然、風のように友雅があかねを浚い、その唇を塞いだ。 容赦なく口内を探り、舌の付け根まで絡め取り、吸い上げる。 「ふっ・・・んぐ・・・う・・・・。」 混ざり合った唾液が溢れ、幼さの残る顎を伝う。 いささか乱暴に身を離し、自分の口元をぐい、と拭った後、友雅は その顎をそっと指先でたどった。 「君はずいぶんと忘れっぽいようだね。『私が欲しいのは、身も心も揃った 私の神子殿』だけだと教えて差し上げたことも忘れてしまったのかい?」 荒い息をつき、ぐったりと崩れ落ちたあかねは、友雅によってかき立てられた色を目尻に 滲ませたまま睨みあげる。 「・・・・そんな耳当たりのいい言葉、誰が信じると思ってるの? 由緒正しい貴族の家柄、恵まれた容姿と溢れる才能。 帝の覚えもめでたいあなたがこんな小娘に夢中?そんなの一時の気まぐれでしょ。 異世界から来た娘と普通でない体験をしたもんだから、いつもの自分を見失っただけ なんじゃないの? 一年かそこらしたら・・・ううん、それどころかほんの数ヶ月したら、 『やはり私の思い違いだったようだよ』とか言うんじゃないの? そしたらこの子はどうなるの? あなたに捨てられたら、この世界には誰も頼れる相手がいなくなる。 女が自分一人で生きていくことなんか出来ない世界だもの。 どうするの? お優しいあなたはどこかに屋敷を宛がってやって、一生食べるに困らないよう 面倒見てやる?それともどっか尼寺にでも追いやるの? そしてあなたはまたどこかのきれいなお姫様を渡り歩いて面白おかしく生きてくわけ?」 友雅はじっとあかねを睨み付ける。この怨霊はあかねの記憶や知識を共有している。 ということは、これもあかねの『思い』だというのだろうか。 「・・・・・私がそのようなことをするのではと『神子殿』が思われているのかい?」 あかねはふっと鼻で笑いながら身を起こす。乱された襟元を直そうともしない。 「この子の本音よ。この子が心の奥底に必死に隠そうとしている不安。 結局あなた、信用されてないんじゃない?」 ずきりと友雅の胸が軋む。 どれほど悔やんでも己の過去は消せない。 あかねがそれを気にしてしまうのは無理のないことだ。 あかねがただ一つの情熱であること、生涯自分の気持ちが変わらないことには絶対の 自信がある。だがあかねに今すぐそれを分かれというのは無理だろう。 友雅はそれこそ一生かけて、自分の思いをあかねに証明するつもりではいる。だが。 不安に思う、そのお心も私に打ち明けてはくださらないのかい? それほどわたしを信用できない? 一瞬揺らぐ、翡翠の瞳。あかねはしてやったりとにやりと笑う。 「所詮、あなたとこの子では住む世界が違いすぎるのよ。 年も身分も違って、ただでさえこんなにギャップが大きいのに、生まれ育った世界が違うのよ? つまり、お互いに常識だと思ってることが違うんだから。 分かり合うなんて不可能なんじゃないの? 傷は浅い方がいいわよ、手遅れになる前にさっさと・・・・。」 その先は聞きたくない。友雅が再びその唇を塞ごうとあかねに手を伸ばした、その時。 突然あかねが胸を押さえて身を捩る。 2,3度苦しげに痙攣し崩れ落ちる身体をとっさに友雅が支えた。 「神子殿っ!?」 そっと起こすと、目をつぶったあかねの顔色は蒼白で、額には脂汗が滲んでいる。 「神子殿、どうしたの?苦しいのかい?今薬師を・・・いや、泰明殿を!」 「大・・・丈夫です、怨霊を・・・・『あの子』を、祓ったんです・・・今。」 「祓った?」 あかねはくったりと友雅の胸に身を預け、荒い息をついている。 「はい。・・・・本当は、もっとちゃんと話をして分かってもらってから、と思ってたんですけど・・・ 友雅さんにあんな言い方するのを、私、黙って聞いてなんかいられなかった・・・・。」 あかねが辛そうに眉を顰める。 「ダメですね、私。こんな風に自分の私情で龍神様の力を使ったりして・・・・。 龍神様に呆れられて神子を降ろされちゃうかな・・・。」 「・・・もしそうなら、私はむしろ嬉しいけれどね。」 あかねはぼんやりと友雅を見上げる。幼子のように無垢な表情に友雅は苦笑した。 「私はいつも嫉妬しているからね。君の魂を深く絡め取っている龍神に。 ・・・・君が『龍神の神子』などでなければいいのにといつも思っていたよ。 そうすれば他の八葉が君の側に侍ることもなく、物忌みの時に目の前で 君を龍神に浚われることもない。」 友雅はそっと乱れたあかねの髪を梳いた。その美貌が切なそうに歪む。 「・・・・いっそ、君の世界に二人で行こうか?そうすれば少しは龍神からも遠くなって・・・・ 君も、私のしがらみを気にしなくてよくなるかい?少しは私を信用してくださる?」 「・・・私、疑ってなんて・・・。」 「構わないよ。君が疑いたくなって当たり前だ。それだけのことを私はしてきた。 全く、自分の浅はかさが恨めしいね。だが、お願いだ。 どうか不安に思うそれを、君の心の奥に隠したりしないでくれまいか? 不満でも焼き餅でもいい、私にぶつけておくれ。」 「・・・・・・・・いいんですか?私、相当焼き餅焼きですよ?それに実はすっごく我が侭だし。」 「うれしいね。いくらでも我が儘を言っておくれ。それを叶えるのが私の喜びだ。」 ゆっくりと友雅はあかねを褥に横たえた。あかねは微笑んで友雅を見上げる。 友雅も同じように微笑み返し、あかねの頬を指の背で撫でる。 ゆっくりと。 友雅の身体があかねに覆い被さっていく。 あかねもまた目を閉じ、口づけを待ちかまえて顎をあげる。 だが、熱い口づけはなかなか降ってこなかった。 いぶかしんであかねはうっすらと目を開ける。 友雅は肘で身を支えてあかねをじっと見下ろしている。 「友雅さん・・・・?」 「・・・・・そうしていつまで、私の姫の振りをしているつもりだい?」 あかねの瞳が大きく瞠られる。灯芯を短く切った灯りに照らされた友雅の表情は見えない。 「友雅さん、何言ってるの?もう怨霊は・・・。」 笑ってさらに言い募ろうとした唇をすらりとした指が押さえた。 「引き際は潔くしないと見苦しいよ?」 友雅の指が離れるのに合わせて、あかねの口角がじわじわと上がる。 やがてその顔にあかねとは似ても似つかぬ薄黒い闇を織り上げたような笑みが浮かんだ。 「・・・・・・どうして分かったの?」 「君と神子殿は何もかもが違う。話し方も声の出し方も視線すらも。 だが何より君には、神子殿のような魂の輝きがない。」 あかねを組み敷いたまま、友雅はまるで天気の話でもするように事も無げに言う。 くすくすと軽い笑い声が大殿油のオレンジ色の灯りを揺らした。 「つまり、龍神に選ばれた貴い齋姫だけが持つ光ってこと? それは確かに怨霊の私にはないわねぇ。」 「そうではないよ。」 笑いが消える。ほのかな灯りが作り出す影が、あかねの顔にゆらゆらと踊る。 もはやその表情は元のあかねとは似ても似つかない。だが友雅は眉一筋、動かさなかった。 「私が惹かれたのは龍神の神子という押しつけられた大層な飾り物ではないからね。 元宮あかねという少女が元々持っている、お人好しで、少しばかり強情で、後先考えずに 突き進んで行ってその結果、自分が傷つき泣くことになってもまた走り出す彼女の魂が・・・・ 私を惹きつけてやまないのだよ。」 「・・・・・・どうしてそんなのが良いのか分からないんだけど?」 「そうかい?私にはとても自然なことだったのだけどねぇ?」 「・・・・最初は、突然押しつけられた大仰な運命におろおろする彼女が哀れでね。 もし逃げ出したくなるなら手伝ってやろうと思っていた。 京が滅ぶとしたらそれは京に生きる者の運命だ。 他の世界の者まで巻き込むことは許されない。 この世には永遠のものなどないのだから、滅ぶなら滅べばいいのだ、と。 ・・・だが、神子殿はそうは思わなかったらしい。」 友雅の目がふっと和み、あかねを見つめながらもその瞳は遙か遠くを見ていた。 「理不尽な要求をされても、彼女はいつも一生懸命それに応えようとしていたよ。 だがいつの間にか、彼女は要求に応えるだけではなく、自分で考え自分の脚で、自分の 考えで動くようになっていた。 思いもよらぬ考え方に、驚かされ、振り回されるのはいつの間にか我々の方になっていた。」 八葉と神子としてあかねと過ごした短いが豊かな時間を懐かしんでいるのか、友雅の声は 楽しげだ。 「もし神子殿が『龍神の神子』だから、神子らしく、と行動していたら、きっと私はこれほどまで 惹かれなかったろうね。『竜神の神子』でありながら、彼女はずっと『元宮あかね』だったよ。 私がどうしようもなく惹かれ、愛しく想い残りの生涯を共に在って欲しいと願う、ただ一人の女性だ。」 いつのまにかあかねの顔からは表情が消えていた。 「最初から・・・・『元宮あかね』だった・・・・?」 「そうだよ。少なくとも私にとって、彼女は最初から、それ以外の何者でもなかったよ。 もちろん、これからも、ね。」 ゆっくりとあかねの目が閉じられる。友雅は何も言わずただあかねを見つめ続けた。 ジジジ・・・・・・油が尽き、燈台の炎が消えた。部屋は真っ暗な闇に沈む。 が、目が慣れてくれば格子を抜け、幾重にも重ねられた几帳をも通り抜けた月の光が ぼんやりと二人の輪郭を浮き彫りにする。 やがて。 閉じられた瞳から銀色の筋が頬を伝う。 それは薄闇の中でもまるで自身が光を放つかのように友雅にははっきり見て取れた。 温かなそれをそっと唇で拭う。 後から後から溢れるそれを幾度も吸い上げ、そして瞼に、額に、頬に唇を触れさせる。 「さぁ・・・・戻っておいで、あかね。私の、白雪・・・。」 友雅の声に呼応するように、あかねの瞳がゆっくりと開く。 まだ涙を湛えた瞳は雨上がりの新緑を思わせる。 「友雅・・・さん・・・・。」 「愛しているよ、あかね。他の誰でもない、今こうして私の腕の中にいる君だけが、私の 全てだよ。」 ゆっくりとあかねの白い腕が上がり友雅の首に回される。 それに逆らわず友雅はゆっくりと愛しい少女に身を重ねていく。 友雅にぎゅっと抱きつくあかねの身体は強張り、微かに震えていた。涙を堪えているのだろうか。 「大好き・・・・友雅さんが、すごく好きです・・・。私、友雅さんが・・・・・。」 どうしようもなく、好き・・・ 肩に押し当てられた柔らかな唇から熱い囁きが友雅の身体に染みこんでいく。 友雅はあかねの髪に鼻を埋めると、消えかけた梅香の香りに甘い少女の体臭が混ざる。 それを深く吸い込んで、貝殻のように可愛らしい耳朶をそっと舐めあげた。 ふるり、とあかねの身体が震え・・・強張りが消えていく。 己の愛撫に敏感に応える少女への愛しさがこみ上げた。 「愛している。愛しているよ、あかね。もうどこへも消えないでおくれ。どうかずっと私のそばに・・・。」 友雅はあかねの身体を抱え込むように腕を廻し、ようやく取り戻した彼の情熱を、心ゆくまで堪能した。 fin......... |
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夢 見たい / koko 様 |