※この作品には、軽度ですが明確な性的表現があります。ご注意下さい。
魔女の呪いを解く方法

= エイプリルフール =



−1−



「も〜う我慢できません!わたくし、帰らせていただきます!」

 ぷりぷりと頭から湯気を噴き上げんばかりに怒った美女は、ドレスの裾をぶん!と翻し
足音高く城を出て行こうとする。

「待って!待ってください!どうしてですかっ!あなたならきっとこの国のお妃様になれるのに!」

ドレスの裾に縋り付き目をうるうるさせて見上げてくる少女を、隣国からわざわざ招かれた、
色気が零れんばかりの未亡人はじろりと睨む。

「あんな顔だけの役立たず王子の妻なんて、例え国中の財宝を積まれたってお断りですわっ!」

取りようによっては国際問題になりそうな捨て台詞を残し、『床上手』と評判の熟女は馬車に
乗り込み土煙を上げて去っていく。
 それをがっくり蹲ったまま見送って、あかねはメイドの白いエプロンの裾を握りしめた。

『顔だけの役立たず』

 何度聞かされたフレーズだろう。
今度こそ、と近隣諸国でも『男を骨抜きにする』と有名な女性を拝み倒して来て貰ったのに!
(ちなみに彼女は3回結婚したが夫はいずれも彼女に精気を吸い取られ、早死にしたと
言われている。)今度こそ、絶対逃がさないでってあんなに頼んだのに!

 怒りに震えながらあかねは立ち上がり、女性が出てきたルートを逆方向へ辿る。

「王子っ!どういうおつもりですかっ!」

 ドアをノックすることもなくバン!と勢いよく押し開き、あかねは叫んだ。
城の主の部屋は、華美ではないがあかねの気遣いで心地良く設えられている。
 天蓋付きのベッドには、間もなく日が中天に懸かろうかという時間にもかかわらず、
白いシーツにくるまれた固まりが。

「起きてください、王子!未亡人が帰っちゃったじゃないですか!いったい何をしたんです?」

シーツをはぎ取るとリンネルのシャツをだらしなくはおっただけの主が寝返ってうっすらと目を開ける。

「ん〜?・・・やぁ、あかね。もう朝食の・・・時間かい?」

気怠げに髪を掻き上げ微笑む姿は、見慣れているあかねですら思わず背筋がぞくりとする。
少し掠れた声が色っぽくて思わず膝の力が抜けそうだ。




 こんなにフェロモン振りまくくせに・・・。何でいざとなったら『役立たず』なのっ!?




 あかねは落ち着け、と自分に言い聞かせながら息を吐いた。

「おはようございます、友雅王子。朝食の用意は出来ております。世の中はもうすぐお昼ですけどね。」

少女のささやかな嫌みに友雅は少し伸びをしながらくすくす笑った。

「おやおや。もうそんな時間なのかい?起こしに来れば良かったのに。」

はぎ取ったシーツを畳んでいると、華やかな香水の匂いが鼻を突いた。
先ほど帰った未亡人の香りだ。微かな胸の痛みにあかねは顔を顰める。

「・・・・・お邪魔してはいけないと思ったんです。今度こそ、ご婚儀まで上手くいってくれるかな、と・・・。」
「今度こそ、ねぇ・・・。おや、そういえばあの御婦人は?」

寝転がったまま気のない問いかけ。あかねは勢いよく主に向き直る。

「帰っちゃいましたよ!どういうつもりなんですか、王子!お子が出来ないとあなたは王位を
継げないんですよ!?」

特にこれといった目玉もない小さな、国。それでも歴史と豊かな自然に恵まれている。
現国王はそろそろ引退し、王妃と2人でのんびり暮らしたいと望んでいる。
跡を継ぐのはたった1人の王子・友雅だ。だが王位を継ぐには条件がある。

「『子供を作ってからでないと王位を継げない』なんて、どうしてそんなやっかいな掟が
あるんですかぁ〜!」

柔らかい桃色の髪を振り乱して嘆く世話係の少女に、友雅はくすくす笑うだけだ。

「合理的な掟だと思うよ。王なんて血を後世に残すために存在するようなものだからねぇ。
子供を作る能力があるかどうかは一番大事だろう?」
「分かってるんならさっさと作ってくださいよ!」

興奮のあまり、あかねは自分が臣下としてはひどく失礼なことを言っていることに気が付かない。

「ああもう、私が小さい頃の友雅王子と言えば『すれ違うだけで女を孕ませられる』と評判だったのに!
どうしてあの頃ホントに作っておいてくださらなかったんですか!」

 檻の中のトラのように行ったり来たりしながらあかねは八つ当たりをする。

「いくら私でもすれ違うだけで女性を孕ませることは無理だねぇ。」
「そのくらい女性にもててたってことです!実際次から次へとひっきりなしに恋人がいた
じゃないですか!何で今はこんなになっちゃったんです!?」
「その頃の悪行がたたって、魔女に呪いを掛けられたから。あかねだって知ってるだろう。」
ゆったりと寝そべって腕枕で流し目を寄越す主。どうしてこの溢れる色気を本番で生かせないのだ!
 あかねはがっくりと肩を落とす。



『魔女の呪い』



 それがあかねの・・・・・・ひいてはこの国の不幸の元凶だ。

 十数年前までは、友雅は恵まれた美貌と地位、そして若者らしい無謀さで次から次へと
女性達をつまみ食いしていた。
もちろん深く付き合うわけではない。その場限りの情事、というやつだ。
良くて数日、悪ければ一夜限りのお付き合い、そして友雅はすぐに別の女性に目を向けてしまう。
何故一人の女性と深く付き合わないのかと問われれば、あっさり「飽きたから」と応え、悪びれない。
それでもあわよくば彼の子を身ごもってお妃の座に、という女性は引きも切らなかった。

 そんな友雅がナンパした中に、西の森に住む魔女がいた。

 実際の年齢はともかく、一見長い黒髪の美しい少女にしか見えない魔女・蘭を友雅は 
いつも通りに美辞麗句で誘い、まんまとモノにし、そしていつも通りに『飽きた』。
相手が魔女だったことが友雅の不運だったのだろう。
女のプライドを傷つけられた蘭は怒り、友雅に呪いを掛けた。

『アンタなんかまるっきり使い物にならなくなって、女に捨てられればいいのよ!』

呪いは見事に効力を発揮し、友雅は閨でまるきり役立たずになってしまった。
のみならず、以前はマメに外へ出て女性をナンパしまくっていたのに、

「なんだか気力が湧かなくてねぇ。これも呪いのようだよ。女性に声を掛ける気になれない。」

と日がな一日、城でごろごろしているようになってしまったのだ。
慌てたのは城の人間達だ。
まず相手の女性が妊娠してくれないと、結婚も即位も出来ないのがこの国の掟。
あれほど王子の女性関係を非難していた大臣達が次々と美女を連れてくる。しかし。

楚々とした美人も。
思わず鼻血の出そうな妖艶たる美女も。
誰の趣味だ!と叫びたくなるような、幼い顔立ちにアンバランスなボン・キュッ・ボンな
体の若い女性も、友雅をその気にさせることが出来なかった。

 いったい何人の女性が友雅の寝室を訪れ、翌朝ぷりぷりと怒って出て行ったろう。
彼女たち曰く、友雅はベッドに寝ころんだまま、ぴくりとも反応しないというのだ。
どれほどの媚態で彼女たちが誘っても、めんどくさそうに眺めているだけ。
あげくにアクビをして先に寝てしまう。
医者に見せたり、薬を使ったり。果てはこっそりプロの女性まで呼んだのに、全く効果はなかった。
ついに王も王妃も諸大臣も匙を投げた。

「子どもを作るまで戻ってくるな。」

と、国外れのこの小さな城へ、あかねをはじめとした僅かな家来と共に追いやられてしまったのだ。
今や友雅が『不能』『役立たず』というのは国の内外で知らぬ者はない。

「別に気にすることはない。妹の藤が誰か男を見つけて身ごもって、女王になればいいだろう?」
「藤姫はまだ10才です!無責任なこと言わないでくださいよ、王子!」

病気で亡くなった母はかつて友雅の世話係だった。
あかねはよちよち歩きの頃から城への出入りが許され、身分が違いながらも友雅には
よく遊んでもらった。あかねにとって友雅は単に忠義を捧げるべき主君というだけでなく
大切な兄のようなものなのだ。

「とにかく何とかしてお子を作って、王子がちゃんと国を継げるということを示さなければ
ならないんです。そのためにわざわざ隣の国から4人もお子を産まれてその上今でも
男性からのアプローチがひっきりなし!の極上未亡人を見つけてきたのに!」

 あかねは涙まで浮かべてきっと王子を睨みつける。

「少しは協力してくださいよ!王子がその気にならないと、女性だけじゃ子供は作れないんですよ?
衛士の天真君なんか、あの未亡人一目見て『鼻血出そう、オレ今夜眠れねぇかも』なんて
言ってたのに!」
「あかねはまだ若いのにすっかり遣り手ばばぁのようだね。年頃の娘がそんなことばかり言って、
嘆かわしいねぇ。このくらいの頃の君は、」

 友雅の右手が気怠そうにベッドの高さくらいのところで横に振られる。

「覚束ない足取りで私の後を追ってきて、『ともましゃしゃん、どこへいくの?あかねもつれていって。』
と零れそうなほど大きな目で私を見上げて、可愛かったのにねぇ・・・。」

わざとらしいため息がカンに障る。

「誰のせいですかー!」

のれんに釘押し、糠に釘。

これ以上友雅の相手をしていても血管が切れそうになるだけだ。
あかねは肩で息をしながら出て行った。背中に当たるくすくす笑いが更に血圧を上げてくれる。



◇◇◇



「よ、あかね。またダメだったみたいだな。」

石で出来た城の手すり越しに、中庭を歩いていた衛士の天真がにやにやと声を掛けてきた。
どう見ても面白がっている天真をじろりと睨みつけ。
あかねは発散しきれなかった怒りをため息で吐きだした。

「全然笑い事じゃないわよ、天真君。どうすればいいの?どうやったらあのぐーたら王子を
その気にさせられるの!」

天真は困ったように頭を掻く。

「う〜ん、あのお色気むんむんの女でもダメだったんだろ?こりゃもう、ホントに無理なんじゃねぇの?
あいつもさして気にしてる様子もないしさ、お前ももう諦めた方が・・・。」
「そんなこと出来るはずないでしょ!友雅王子はこの国の跡取りなのよ?」
「あ、あかねちゃん!よかったここにいたんだね。」

 通路の向こうから小走りに寄ってきたのは調理係の詩紋だ。
手には一目で王家からと分かる印章入りの封書。

 嫌な予感がした。

本来なら手紙は友雅に渡すべきものだ。だがあかねは躊躇いなく封を切る。
読み進める手が次第に震えてきた。

「天真君、詩紋君!」

 手紙をぐしゃりと握りしめ、あかねは決意した。

「私、ちょっと出掛けてくるから。後のこと、よろしくね!」
「え?いいけど・・・どこ行くの?」
「遅くなるかも知れないけど、心配しないで!」
「おい、あかね?」

 戸惑う2人を置き去りにして、あかねは走り去った。



◇◇◇



数時間後。

 目立たないフード付きマントをかぶり、あかねは暗い西の森を歩いていた。
目指すは魔女・蘭の家。
鳥の声すらまれな森を一人で歩くのは例えしっかり者のあかねといえども全身の勇気を
総動員させる必要があった。
 本当は誰かについてきて欲しかったが、もし蘭の怒りを買えば無事には帰れない。
他の者を巻き添えにすることはしたくなかった。

 バサバサバサ!

蝙蝠のような翼を持った何かが茂みから飛び立つ。
腰が抜けそうになってしまう自分を必死に叱咤し、あかねはポケットの中の手紙を更に握った。
手紙には、何年経っても回復の見込みのない友雅を後継者の地位から外し、まだ幼い藤姫に、
母方の後見を付けて次代の女王にすべく準備を始めることにする、とあった。
 そのお触れは次の夏至の祭りに行われる。
夏至までに友雅が誰か女性を身ごもらせることが出来ない限り、友雅は本当に役立たずとして、
国を追われてしまうのだ。

あかねはきゅっと唇を噛みしめると再び足を踏み出した。



「ごめんください!西の魔女さん!蘭さん!お願いがあるの、開けてください!」

ツタに絡まれた小さな石の家。
気味の悪い装飾が彫り込まれた扉を手が痛くなるほど叩き続けていると不意に扉が開いた。

「まったく、煩いわねぇ!昼寝を邪魔すると、ひきがえるに変えてやるわよ!」

不機嫌そうに現れた、自分と同じくらいの年頃の少女。
だがこの魔女は10年以上前、友雅に呪いを掛けたときもこの姿だったし、更に言えば、
国一番の老人が子どもの頃からこの姿なのだ。
 あかねはごくり、とつばを飲み込んだ。そして思い切りよく頭を下げる。

「お願いです、蘭さん!友雅王子に掛けた呪いを解いてあげてください!」

魔女は首を傾げてあかねを見た。



 部屋の中は意外に普通だった。
壁に掛かった干しハーブの束が、良く見ると小さな人間のような形をしていたり、
ひどく良く出来たフクロウの木の置物が時々身じろぎすることから目を逸らしていられるのなら。

「さ、飲みなさい。沼で採れたナゲキグサのお茶よ。飲めばたちまち心が沈んで、何もかも
嘆きたくなるわ。」 

大きな切り株のテーブルに置かれた、薄黒い湯気を上げる紫色のお茶。
そんなことを言われてホイホイ飲めると思うのだろうか。
だが断れば魔女の機嫌を損ねてしまうかも知れない。
あかねは目をつぶって一気に中身を喉に流し込む。
熱さといがらっぽさに思わずごほごほ咳き込むあかねを魔女は面白そうに眺めていた。

「で?あのロクデナシ王子の呪いを解いて欲しいって?」
「そ、そうです。・・・げほッ・・・・お願いします、蘭さん。こほ、こほっ・・・早く子どもを作らないと、
王子は国を追われてしまうんです。」

魔女はゆったりと足を組むと、人の手の形をした椅子にもたれ掛かった。

「いいじゃない、あんな役立たずの王子居なくなったって。別に国が滅びるわけじゃないでしょ?
むしろ世の中のためよ、あんな女ったらし、いない方が。」

ひらひらと手を振って蘭は笑った。

「王子は役立たずなんかじゃありません!ホントはすごくいろんなコトが出来る人なんです!
私みたいに何の身分もない子どもにも優しくて・・・・居なくなった方がいいなんてこと、絶対に
ありません!」

ナゲキグサのお茶が効いてきたのだろうか。あかねはぽろぽろと涙をこぼしながら訴える。

「お願いです、蘭さん!私に出来ることなら何でもしますから、王子の呪いを解いてあげてください!」

頬杖をついたまま、蘭はじっとあかねを見た。そしてため息を一つ。

「何でも?」
「はい!」
「あの呪いを解くためには、乙女の命がいると言ったら?」

 蘭の目が暗く光る。にぃっと赤い唇があがり、鋭い犬歯がちらりと覗く。
 あかねは震える体にぐっと力を込め、まっすぐに蘭を見返した。

「私の命を使ってください!」

2人はじっと互いに見入ったまま動かなかった。遠くでオオカミの遠吠えが聞こえる。
先に動いたのは蘭だった。肩をすくめ、理解できない、と頭を振る。

「どこがいいのかしらね、あんな男?顔しか取り柄がないじゃない。」
「王子はそんな・・・・・っ!」
「はいはい、わかったわかった。アンタのその意気込みに免じて、今回は譲ってあげるわ。」

ぱっとあかねの顔が明るくなった。

「じゃぁ、呪いを解いていただけるんですね?」
「あ、それはムリ。」
「え?でも・・・。」
「あの呪いはね、私にも解けないの。アンタ、王子のためなら命も投げ出すって、本気?」

面白そうに覗き込んでくる蘭にあかねは躊躇いなく頷く。

「本気です!私の命、使ってください!」

蘭はにんまりと笑った。




 ドサドサドサ。

「あの・・・これ、何ですか?」

テーブルに山積みされたショッキングピンクの本といくつかの小さな石を前にあかねは途方に暮れる。

「アンタが呪いを解くのよ。これを使ってね。」
「は?私、魔法を解くなんて、そんなこと・・・!」

城付きの魔法使いでも出来なかったことを、ただの世話役の自分が出来るはずがない。
蘭はちっちと指を振る。

「言ったでしょ?あの呪いは魔法使いには解けないの。解けるのは、王子を心から想う乙女だけ。
アンタ、王子のために命をかけるって言ったじゃない。」
「言いましたけど、でも、これ・・・・。」

本の一冊を手に取り何気なくぱらぱらと開く。多くの挿絵が入っていた。
その一枚に目を留めて、それが何か分かるとたちまちあかねの顔が朱に染まる。

「ら、蘭さん!これっ・・・!」
「アンタ、処女でしょ?あの物ぐさマグロな王子をその気にさせる方法、これで勉強しなさい。」

よくよく見れば、本のタイトルが見て取れる。

『男を虜にするテクニック』
『これで彼もあなたに骨抜き〜秘密のテクニック56〜』
『彼を天国へ導くために』 ・・・・等々

「あ、こっちは映像が出るから。この水晶玉にね、こうやってかざすと、ほらそっちの壁に。」

蘭が小さな小石を水晶にかざすと、ぽうっと水晶玉が光り、黒い壁に光を伸ばす。

『ああん、あん、あん!』

いきなり男女の絡みがドアップで映される。

「きゃっぁぁあ!蘭さん!!何なんですかこれは〜!!」

 真っ赤な顔で焦りまくるあかね。

「だーかーらー、あのすっとこどっこいなタコ王子をその気にさせるテクニックをこれで
勉強しなさいって言ってんの!アンタ何でもするって言ったわよね?
今更アレは嘘でしたなんて、言わせないわよ?」

魔女が纏う黒いドレスから更に黒い気配が立ち上る。あかねはただ、こくこくと頷くしかなかった。





◇◇◇




あかねが城に戻ったのは既に真夜中すぎだ。ひっそりと辺りは静まりかえり、あかねは
誰にも見咎められることなく、主──────  友雅の部屋の前まで来た。
纏っていたフードを外し、魔女からもらった小瓶をこっそりと取りだす。

『い〜い?いくら魔女界秘伝のテクニックを学んだからって、処女のアンタには確かにあの
腐れスダコをその気にさせるのは難しいかも知れない。だから、これをあげるわ。』

 魔女が寄越した水晶の小瓶をあかねは不思議そうに掲げ見た。

『何ですか、これ?』
『男をその気にさせる薬よ。いわゆる媚薬ね。ただし、それは女が飲むの。
それを飲んだ女を前にすれば、例えそれがハイハイしかできない赤ん坊だろうと、
棺桶に片足突っ込んだよぼよぼじーさんだろうと、てきめんにノンストップで一晩中
イけちゃいます、ごちそ−さま!ってなもんよ。』
『は、あ・・・・。』

何がごちそうさまなのか良くわからない。でも、確か媚薬は城の医師も試したはず。

『それは魔女の特別製よ。ただの人間が作ったモンと一緒にして貰っちゃ困るわ。
でも、強力なだけに同じく超強力な副作用があるの。』

 あかねは魔女の言葉を思いだし、小瓶をぎゅっと握りしめた。

『もしその薬を飲んでも、王子がアンタとしなかったら・・・・まぁ、そんなことあり得ないとは
思うけどね、もしアンタの体の中に王子の精が入らなかったら、アンタはその薬の毒で
明日の朝には死ぬわ。』

あかねはぐっと歯を噛みしめた。王子のために捨てるなら、この命は惜しくない。
何としても、王子の呪いを解いてみせる!

 あかねは躊躇うことなく小瓶の中身をあおった。ほのかに甘い、花の香りがした。




かちゃり・・・静かなはずのドアの音がやけに耳に響いて、あかねの背中を汗が伝う。
ゆっくり歩を進めると、奥から静かな寝息が聞こえる。
ベッドのすぐ側まで来ると、目が暗闇になれてきた。

 友雅は仰向けに眠っていた。こんな時間に主の寝顔を見るのは初めてだ。
起きているとどうしようもなくぐーたらでつい怒鳴ってばかりだけれど、こうして見ると
なんだか可愛い。あかねはふふっと笑った。

そっと上掛けを剥ぐと、朝と同じリンネルのシャツ。




 ああもう、私がいないと着替えもしないんだから。・・・ホントに王子・・・・・・友雅さんは
しょうがない人だなぁ・・・。




心の中で、そっと昔の呼び方で呼んでみる。
成長して、身分の違いや友雅の立場が分かるようになり。
あかねはこの人に親しい兄のように接するのを止めた。

いつか、他の誰かと結婚する人だ。
いつか、手の届かない人になって国を背負って立つ人だ。

そう思って自分の気持ちを押し殺してきた。

 でも、一度だけ。
こんなに年の離れた子どもで、彼の好みとはかけ離れているけれど、今夜一度だけ、
触れてもいいだろうか。
自分が彼の呪いを解くことが出来れば、彼のことだ、すぐにも相応しい身分の、もっと
お似合いの女性との間に子を成すことが出来るだろう。

少し震える指で、はおっただけのシャツを開く。
現れたのは見惚れるほどの引き締まった体。
本と映像を思い出しながら、あかねは規則正しく上下する胸の、小さな先端にそっと舌を這わせた。

「ん・・・・・・。」

 友雅が身じろぎする。
起こしてしまった?と思わずあかねは飛び退いた。
いや、いずれは起きてもらわなければならないのだけれど、取り敢えずもう少し心の準備が
したい。魔女の媚薬が効いているなら、寝たままでも友雅の体は反応するはず。

 再び勇気を振り絞り、あかねは友雅の体に手を伸ばす。

 首筋から筋肉の付き方に沿って指を辿らせ、そっとツボを押していく。
魔女の本に載っていた、『男を興奮させるツボ』だ。
 手の平を広げ堅く滑らかな腹部から脇へ。揉むようになで下ろし、ごくっと息を呑む。
この先は。

 がんばれ自分!と励まして、そっとズボンに手を伸ばした。




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