ブルーマーメイド

= 王子様と人魚姫 =



−5-3 −

 *


「随分、お早いお着きで。よほど、お暇なのですか? ご領地の方は」
 ストレートな刺を忍ばせて、詩紋は慇懃無礼なほほ笑みを浮かべて客人マンゾーニ伯爵を迎えた。
 予定よりも十日も早い伯爵の到着に、南エリュシオンは右往左往している。こんな礼儀知らずの客には、これくらいの嫌味は許される筈だ。
「ふふ。よほど、私が早く来たのが不満に見える」
「当然でしょう。エリュシオンにも予定というものがありますから」
 世界はマンゾーニ伯爵の為に回っている訳ではないのだ。
「私のマーメイドは息災かね?」
 だが、詩紋の言い分や態度など意に返さずに、マンゾーニは彼の為に用意されたシルクの絨毯の上を滑るように歩いた。
「さて、私はカウンセラーではありませんので、お答え致しかねます」
「では、ドクター鷹通かドクター頼久を呼んでくれたまえ」
「善処しましょう」
「今夜にでも……」
 早く、愛しいマーメイドのことを知りたい。早く、あの桃色の真珠のような少女に逢いたい。
 マンゾーニは少年のように胸を高鳴らせて、あかねとの逢瀬を想像する。
「ああ、あの子は、いかばかりに美しく育ったのだろう? 一年ぶりだよ」
 いかなマンゾーニと云えども、エリュシオンでも一、二を争うほどに優秀なマーメイドを長々と独占していられない。
 気が遠くなるような順番を待って、やっと巡ってきた時間。マンゾーニはいても立ってもいられなくなって、船に飛び乗ってきたのだ。
「あの子の近況が聞きたいのだ。エリアマスター、私の胸の内を分かってくれるね? 出来るだけ早く、カウンセラーを呼んで欲しい」
「善・処・し・ま・しょ・う」
 慇懃無礼に詩紋は今度は区切って呟いた。
「まったく君は、いつも突っ掛かるね」
「そうでしょうか?」
 鷹通や頼久にも仕事の都合というものがあるのだ。それを無視して進めようとしているのは誰だと、詩紋は内心毒突きながらも、表面上は何事もなく立ち振る舞った。
「………もう、いい。それより、あかねに会いたい」
 そう、最初からそうすればいいのだ。と、マンゾーニは満足気に呟く。
「あの子に逢えば、私自身の目で確かめることが出来る。そうだ、そうしよう。エリアマスター、明日にでも私の許へ連れて来てはくれないだろうか?」
 断られるとは露も思わないマンゾーニ。しかし、そんな彼に詩紋はキッパリと拒否をした。
「お断わりいたします」
「何故?」
「あかねは、ただ今仕事中ですので」
「仕事中? 私が来ているのだよ」
 自分以上に優先しなければならないような人間の相手でもしているのかね? と、マンゾーニは詩紋のセリフを鼻先で笑った。
「ヒーリングの邪魔をするのは非礼ですよ、伯爵。それに、私たちとしてもあかねの集中力を散じさせたくありません。第一、伯爵がいらっしゃったのは、予定外のことですし」
 本来なら、まだここへ来る時期ではない筈だ。
「私が悪いと、君は言うのかね……」
「別に、そんなことは申し上げておりません。ただ、ルールはお守りくださいと申し上げているだけです」
「では何時会えるのかね?」
「伯爵が適性検査をお済ませになり、然る後に機会を作らせて頂きます」
「では、その適性検査が終わるのはッ?」
 苛立っているマンゾーニに、詩紋は淡々と答える。
「はい。予定通り十日後から適性検査は始まります。検査日数は約十日。結果はその二日後から、三日後になっております」
 約一月を、マンゾーニは無為に過ごさなければならないと、詩紋はこともなげに告げる。
「話にならない! 検査は明日から始められないのかね!」
 マンゾーニも暇な人間ではない。あかね会いたさで、予定より早く訪れたのだ。あかねに会っていられるなら、十日間のロスも無駄ではないが、そうでないのなら、十日間が無駄になる。
「生憎、準備に時間がかかりますので………」
 適性検査は一朝一夕で出来るものではないことはご存じでしょう……と、詩紋はやんわりとエリュシオンの正当性を誇示する。
「ならば、あかねを此所に寄越したまえ!」
「何度も言いますが、お断わりします。今現在、あかねは仕事中だと申し上げた筈です」
「エリアマスター!」
「申し訳ありません。ですが、エリュシオンの規則です」
 客が客を侵してはならない。
「伯爵が、今現在のあかねのリーダーとお話合いになって、彼の了承が得られたならば、あかねをここに連れて来ることは出来ますが……」
 意味深に詩紋は言葉を濁す。
 だが、その言葉にマンゾーニの怒りが爆発した。
「もう、いいッ! 下がりたまえ」
(この私に頭を下げろと言うのか!)
 マンゾーニは激しく怒りながら詩紋を追い出した。
「はい。では、失礼いたします」
 だが、詩紋は追い出されて、清々していた事をマンゾーニは知らない。


「伯爵が来たの」
 あかねがプールの縁に腰掛けて、プールの中にいる友雅に報告した。
 告げながらあかねは落ち着かなくなる。そして、不安からか、身体も小刻みな震えを刻み始めた。
「ああ、大丈夫だよ。あかね」
 少女の身体を抱きしめ、優しく微笑みかける。だが、今も友雅に触れている指先が震えている。
 震えるあかねの手をギュッと抱き締めて友雅はあかねをプールの中へと誘う。人魚ゆえに、少女は水の中の方が落ち着くらしい。
「朝から、様子が変だったのはこういう訳だったのだね。いつ、知ったの?」
「………………伯爵からの招待状が届いたの……」
「そう。あとでそれを私に寄越しなさい。謹んで燃やしておいてあげるよ」
 昨夜、眠る寸前まで今日一緒に泳ぐことを楽しみにしていた筈のあかねが、今朝、起きた時から様子がおかしかった。
 訝しく思いながらも、友雅は強く問い詰めることをせずに、あかねが自分から言いにくるのを辛抱強く待っていたのだ。
 やっと得心がいった友雅は、先程から目を合わせるのを恐れていたあかねの顎を掴み、自分の方に向けさせる。
「心配しなくてもいいのだよ。もう君を誰にも渡したりなどしない。誰にも触れさせるものか」
 あかねの目尻にキスを落として、友雅はあかねを水の中へ放す。
「私のことだけを考えておいで」
 甘く告げると、あかねが目を丸くしたあと、小さく笑った。
「友雅さん、ワガママ」
 あかねはクスクスと笑って、床を蹴ってプールの中央へ泳いでいく。
「ねえ、友雅さん。ゲームしよ」
 少し離れた場所からあかねが叫ぶ。
「わたしを捕まえて!」
「…あかね………」
 水の中でどうやったらマーメイドを捕まえられると言うのだ?
「捕らえられたら、なにかご褒美がいただけるのかな?」
 負けると分かっている勝負なんて、疲れるだけだ。と、友雅はあかねの誘いに乗ろうとしなかった。だが、
「そうね。わたしを捕まえられたら、友雅さんの言うこと何でも聞いてあげるわ」
 悪戯っぽくあかねがニッコリと笑った。そして、友雅もそのセリフに、思わず少女の顔を見た。
「そのセリフ、忘れないでおくれ」
「もちろん。でも、わたしを捕まえられなければ、友雅さんは一晩中、わたしに歌を歌うのよ」
 喉の怪我もあかねのおかげでほぼ完治している。リハビリを兼ねた喉慣らしのレッスンには少女は当然のように付いてきた。そして、付いてきたのはそれだけではない。
 運動不足解消のために、センターのフィットネスやスイミングプールにも通うようになった。それにあかねが付いてくるようになったのは何時からだろう?
 最初は友雅もセンターのトレーニングジムの中にあるプールを使っていた。
 だが、いつしかあかねが付いてくるようになり、プールの中に入ってきて友雅の邪魔をして無邪気に遊び回る。それが嫌な訳ではない。自分に戯れつくあかねは非常に可愛い。なんでもしてやりたくなるくらい愛しくなる。
 だが、いかんせん、ここは言わば公共の場。社交場。自分以外の人間が多すぎる。あかねのそんな愛らしい表情や仕草を見せてやるには、友雅の心は狭すぎた。
 本来、マーメイドは臆病で人間の前に現れたがらないのだが、あかねは友雅がいれば、どこへでも付いてきたのだ。
 そうなると、友雅の選択は限られてくる。
 二人で泳げてかつ、邪魔の入らない場所。友雅は必死でそんな場所を見付け、以来ずっとここで二人きり? で泳いでいる。
 友雅はあかねを追い掛けた。だが、こんな時のあかねは意地が悪い。自分の優位を知っているから、からかうように友雅の少し前を泳ぐのだ。手を伸ばしたら届きそうなのに、伸ばした瞬間に離される。
(まったく、誰に似たのやら?)
 人の好すぎる鷹通ではない。ちなみに、真面目すぎる頼久でもない。
(さしあたりは、天真かねえ?)
 いや、もともとの性格なのか?
 友雅があかねをプールの隅に追いやろうと誘導していた。もう少しで、友雅の射程距離に少女を追い詰めることができたのに、邪魔が入る。
「ルゥーク! 邪魔をしないでおくれ」
 グイグイ、グイグイと、友雅の身体にまとわり付いて、泳ぐのを邪魔をするフィリッパーのルゥーク。
「友雅さん、怒らないで。ルゥークは友雅さんを気に入ってるのよ」
 少し離れた場所から顔を出し、あかねは友雅を諌める。
「光栄なのかな?」
 邪魔者を追い出してやりたい。だが、ここは、フィリッパーの育成プールの一つだったりするのだ。ようするに、友雅の方が間借りしているのだ。
「まったく、なぜ君は私たちがここに入ってくる度に、入ってくるのだい?」
 大体、ここは友雅が泳ぐために、湖の水は引いて来てない。わざわざ硬水を張って友雅仕様にしてあるプールなのだ。
「君のプールは他にもあるだろう? いや、広い湖があるじゃないか。わざわざこのプールに入ってくる必要はないと思うのだがね」
 ルゥークの鼻先を突付こうとした友雅の指先を、ルゥークはスイッと泳いで躱し、そのまま身を踊らせてあかねの側に泳ぎ寄る。
(あかね 友雅 ドーシテ怒ル?)
「怒ってないよ。拗ねてるの」
 とても心の狭い男は、あかねに他の雄が近づくのをよしとしない。それが、人間であれ。フィリッパーであれ。
(ぼくモ 遊ブ)
 ルゥークは何故かとても友雅を気に入っていて、友雅が湖の岸辺にあかねを迎えに来たとき、いつもあかねよりも早く友雅の元へ泳ぎ寄る。
「ルゥークはどうしてそんなに友雅さんを気に入ってるの?」
 可愛がられる訳じゃなし、どちらかと言えば欝陶しがられているのに。
 だが、ルゥークの言い分は簡潔だった。
(友雅 オモシロイ キモチイー!)
「オモシロイ? キモチイー? 友雅さんが?」
 フィリッパーの感性には付いていけないものをあかねは感じた。
「どんな風に?」
 思わずあかねは聞いてしまったが、後でそれを死ぬほど後悔した。
(コンナフウニ!)
 ルゥークは口先であかねの腹を突いた格好で、勢い良く泳ぎだす。
「きゃあっ。ルゥークッ!」
 とっさのことであかねは逃げられなかった。ルゥークによって友雅の許へ運ばれてしまう。
「ちょっと待って。そっちはダメーっっっ」
 これはかなり反則では? と、あかねは思ってしまう。が、勢いは止まらずにあかねは友雅の腕の中へ押しやられた。
「おや、これは」
 友雅はいきなり腕の中に飛び込んできたあかねをしっかりと抱きとめて、棚から落ちてきたボタ餅を捕まえた。
「ルゥークッ!」
 あかねはルゥークを叱責した。
「これはノーカウントです、友雅さん」
「とんでもない。ゲームは私の勝ちだよ」
 あかねをきつく抱き込んで友雅は放そうとしない。
「ちがっ、こんなの反則だわーっっっ」
 捕まえたのは友雅じゃない。ルゥークが友雅にあかねを運んだのだ。
「ちょっと、ルゥーク! どーしてこんなコトをしたのよっ。わたしたちゲームしてたのよ。負けちゃったじゃない!」
(ダッテ あかね オシエロイッタ)
 ルゥークは気持ち良さそうに泳ぎながら、二人の側をグルグル回って喜んでいる。
 友雅の腕の中で暴れるのを止めて、あかねはふと考え込む。
 確かにルゥークにどうしてか? と尋ねた。けれど、これのどこに答えがある?
「ルゥーク?」
(キモチイイ 友雅 トテモキモチイイ あかね 側ニイル 友雅 温カイ 柔ラカイ マルデ 湖 流レル風)
 猫にまたたび状態。ルゥークは腹を浮かせてウットリと浮かんでいる。ときおり、胸鰭をバタバタ動かして酔い痴れているのを示す行動をとっている。
 その情けない姿を見て、あかねはちょっぴりだけ脱力してしまう。
(ルゥーク………)
 そうだ。そうだった。フィリッパーは人間の感情の波に流されやすい生き物なのだ。
 しかも、ルゥークは大の人間好き。
 感情の豊かな人であればあるほど、お気に入りなのだ。そのウェーブが受け取りやすいから。
 尾鰭で水を叩いてバシャバシャと、水を跳ね上げる。 よっぽど、気持ち良いらしい。
「で、何でオモシロイの?」
 気持ちいいのは分かった。あかねは観念して友雅に抱かれたままルゥークに質問する。
 その途端、ルゥークは身体を捻って起こし、すーいと悠然と二人を取り巻くように泳ぎながら答える。
(友雅 あかね スキ 側ニヨル 波 強クナル!)
 一番気持ち良い。
 タノシイ! オカシイ! キモチイイ! と、ルゥークは興奮しながらあかねたちの回りを忙しく泳ぐ。
「ルゥーク………」
 ルゥークに悪気が無いのは分かった。
 でも、どうして今なのだ? あかねは友雅を振り仰ぐ。
「友雅さんー、やり直しー……」
「ダメ」
「今のは無しよ。ルゥークが邪魔したんだから!」
「そんなルールはなかったねえ」
「今作ったの!」
「却下だよ。次のルールではそうしてもいいけど?」
 友雅はあかねの濡れた髪に頬摺りしながら、嬉しそうに呟いた。
「観念しなさい。あかね」
 もう、遅い。
 そして友雅は珍しく機嫌良く、近付いてきたフィリッパーの身体を撫でて誉めてやる。
「なかなか君は良いことをするねえ」
「ルゥークの、バカっ!」
 おかげで、あかねは今から散々になる予定だ。


 プールの浅瀬に友雅はあかねを追い詰めた。
 熱い視線で焦がすように凝視める友雅の瞳から逃げようと、あかねは益々後方にずり下がってプールサイドの方へ後向きで逃げる。
 二人が使っていたプールは子供のフィリッパーを飼育する為のプールだったので、傾斜状になった大きな扇状型のプールで奥にいけば行くほど深くなり、水際になればなるほど浅くなる。
 そして、二人が縺れ合っているのは、水際の水深が二十センチもないような場所。
 ここでは、いかなマーメイドのあかねと言えど、水の恩恵は受けられない。
「…友雅さん………」
「何でも、言うことを聞いてくれるのだろう?」
 友雅の冷たい指が頬から首、そして胸へと滑り落ちる。
「こん…な、ところで」
 友雅を押し退けようとしながら、あかねは逃げ道がないか回りを見回した。
「あかね……」
(簡単に、逃がすつもりはないよ………)
 いつにないシチュエイションに友雅は燃え上がっている。
 体重をかけてあかねの身体を押し倒す。水中に沈んだあかねの薄紅色の髪がユラユラと揺れる。
「友雅さんの節操無しっ」
 誰かが来たらどうするのだ! あかねは回りを気にしてつい入り口の方向が気になる。
「誰も来ないよ、こんなところ」
 フィリッパーの出産シーズンも子育てシーズンもまだ遥かに先。何せ、彼らの発情期はまだ二ヵ月も先の話。出産も子育ても、それが終わってからだ。
 だからこそ、今、このプールを友雅の専用プールにしても構わないと、許可が下りているのだ。
 管理人はいるが、飼育者達はこの館にはいない。管理人も滅多なことではプールを見回りに来ない。
「大人しくしなさい、あかね」
「ちょっ、イヤ! ここは、イヤなの。友雅さん……」
「暴れないで…」
 バシャバシャと水を蹴ってあかねは暴れる。
「あんまり、大きな声を出していると、管理人が確かめに来るかもしれないねえ」
 友雅はニヤリと笑って、あかねを見下ろした。
「イジワルっ……」
 あかねの声が途端に静かになった。
 悔しそうにあかねが友雅を無言で睨むのを、友雅は楽しげに受け止めた。
 この調子で観念していて欲しいものだ。あかねを征服する愉しみもあるが、やはり二人で愛し合う方が気持ち良い。
 友雅の唇が胸元に下りて、何度も啄ばむように小さなキスを続ける。あかねが自分のものだと誇示するように、小さくとも必ずキスマークを付けることを忘れない。
 首から胸許にかけて、口付けの小花が賑やかに咲き乱れる。
「友雅さん、ヤダ。ルゥークが居るのに……」
 このプールは二人きりでないからと、あかねはやんわりと友雅を拒む。けれど、友雅は聞こえないかのように、あかねの胸の突起を優しく噛んで行為を続ける。
「ぁあっ…ダメ………」
 胸の果実を噛まれて背中に電流が走る。それに、友雅が腰をなぞる手と、水際に寄せるさざ波があかねの脇を愛撫する。快感が綯い交ぜになって、あかねは少しずつ息を乱していく。
「ダメではないよ」
 性急な愛撫でない分、あかねの羞恥心はそこここに残っている。それ故に、恥じらいが勝って、感じてよがることを素直に認めない。いつも以上に頬を染めて抵抗するのだ。だが、敏感な肌は友雅の落とす一つ一つの愛撫を余すことなく快い波に変えて、あかねを満たしていく。
 あかねの足が水を蹴る。水はあかねの身体に優しくまとわるが、守ってはくれないし、縋りつく枕やシーツの代わりにもならない。掴まるものが何もないのは妙に不安に感じる。
 友雅の指がとうとうあかねの下肢に絡み付き、淫らに蠢く。
「あぁっ…」
 ビクンッと跳ねる躰。それと共に波飛沫が上がる。
 あかねが快感に悦がる度に、パシャパシャと水が跳ねる。
「…んふぅ………」
 友雅は、あかねの花びらに指を埋め、内を愛撫する。
「ともまさ、さん。あ……」
 恥かしい。そして、いってしまそうだった。
 だが、絶妙のタイミングで友雅はあかねの快感を散らしてしまう。
「やめちゃ、いやっ」
 あかねの背が弓ぞりにしなって、腰を自然に掲げ上げる形で友雅の前に秘所を曝す姿勢で固まった。友雅は、すかさずあかねの腰を片腕で固定してその姿勢を崩させないまま、自分の躰をあかねの足の間に滑り込ませた。
 はぁはぁと小刻みに上下するあかねの胸。
 目の前にはあかねの可憐な花が、息ずくようにヒクヒクと蠢いている。
 友雅は熱い舌で、花びらを舐めた。
「ひぁっ!」
 あかねの唯一自由になる頭が左右にイヤイヤをして振られる。
 舌先であかねの花びらを犯して、その淫らな花を露で濡らす。朝露を花びらに含ませる夜霧のように時間を掛けて。
「ヤダぁ……とも…まささ、ん……」
 抱え上げられた足先に冷たい小波が触れて、その瞬間あかねの躰がビクンと反応を示す。
「…もぉ…いい…。もういいから、はやく…」
 あかねは腕を伸ばして友雅の髪を掴む。
「…はやく、シテ………」
 今にも泣きそうな瞳で、友雅に哀願する。
 友雅の舌と唾液によって、綻ばされた花びらは舌でない存在の侵入を待ちわびるように妖しくヒクついている。
 友雅は膝を立ちになり、あかねの腰を抱え直す。そして、己の雄をあかねの花びらに押し当てた。
「はぁ…ん……」
 期待に満ち溢れたあかねの艶やかな微笑み。きっと、このマーメイドは今自分がどんな貌をしているのか知らないのだろう。
「……あかね………」
 殊更ゆっくりと友雅はあかねの花びらに雄を侵入させていく。
 その緩慢な動きは、あかねに友雅の形をまざまざと思い描かせる。
「んんぅ………」
 眉根を寄せながら、あかねはその刺激に耐えようと吐息を洩らし、深く肩で息をした。
「…はぁ…ふっ………」
 全てを収めて友雅はあかねを見下ろした。
「あかね……いいかい?」
 今さら、いいも悪いもない。
 あかねは返事の代わりに友雅の首に腕を回してやる。そうすると、鮮やかな笑みが友雅の口元に浮かび、あかねはその表情に驚いた。けれど、その次の瞬間には何も考えられなくなった。激しく友雅に腰を打ち付けられて、何を考えられるだろう?

 浅く息を繰り返し、熱に浮かされたあかねは、友雅の名前を何度も呼んだ。その度に友雅は満足したように微笑んでいたが、あかねは覚えていない。
 ただ、熱く弾けた瞬間に、目を見開いたことは覚えている。
 視界に映ったのはドームの天井。そして、ジャンプしたルゥークの魚影と高く上がった波飛沫。



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Cream Pink /  狩谷桃子 様