月の宴

=友雅なのに号泣!?=



8

泰明の術で飛び立った式は、桂の川辺でピタリと止まった。
くるくると二対の式は踊るように回った後、青白い炎と共に昇華する。


「ここか・・・。」


泰明はポソリとそう、呟くと数珠片手に瞑想をはじめた。
友雅とあかねも暫ししてそこに辿り着くと泰明のもとに駆け寄った。


「泰明さん・・・。ここに何かが?」


あかねの言葉に泰明は静かに頷き、瞳を開いた。

「来るぞ。気を抜くな。」



チリン・・・
チリン・・・・・・

泰明の言葉と同時に、鈴の音が響く。
泰明と友雅は、あかねを挟むようにして
守りながら互いに背を預け身構える。

禍々しい気が三人を包み込む。

泰明は数珠を突き出し、友雅は懐の扇子から短刀を引き抜く。
二人は互いに気を張り巡らせ、その禍々しい気の根源を探る。
ピリピリとした緊張感。



三尺程先の空気が不穏に歪んだ事に友雅は気づいた。
手にした短刀をそこ目掛けて投げつける。
しかし、寸手の所でそれはバチッと小さな火花をあげてはじき返された。


・・・ニャア


その歪んだ場所から現れたのは、あの猫だった。
思わず手を伸ばしそうになる程の本当に愛らしい小さな仔猫。
しかし、それがそれとは程遠いものだという事を知っていた。


泰明が短い呪を唱え護符を猫に投げつける。
しかし猫の瞳がピカッと緋色に妖しく光ったと同時に
その護符は燃やし尽くされた。



「クッ・・・」



泰明は再び懐から数枚の護符を取り出した。



・・・ニャア


その時また、猫がひとつ鳴いた。
風が通り抜ける・・・。
泰明の手から護符が払い飛ばされた。



・・・ニャア



更に強い風が吹き荒れる。
友雅はあかねを抱き寄せ、重心を落としそれを凌いだ。



風が通り過ぎた後、泰明の姿は消え
猫は何もなかったようにそこで毛繕いをしていた。






「おや・・・。残ったのは白龍の神子と地の白虎かい。」



なにもない空間から蜃気楼のように現れたシリン。
猫は嬉しそうにシリンの元にかけより、ゴロゴロと喉を鳴らした。



「泰明さんまで・・・。」




あかねの声が震える。



「あんたとはやっぱり何か因縁があるようだねぇ。地の白虎。」

「女性と縁があるなんて私は幸せ者だね。」

「私がもっと幸せにしてやるよ。極楽浄土を見せてあげる。」



最初に仕掛けてきたのはシリン。
優雅に舞いながら友雅に間合いを詰め、鈴のような武器で襲い掛かる。

それが振るわれる度にシャリン、シャリンとその音色が響く。
友雅はそれを、ひらりひらりとかわしていく。


「君のような美女と戦うのは本望ではないのだけれどもね。」
「そうかい、それは嬉しいね。」



友雅は、襲い来るシリンの攻撃をかわしながら気を集中する。



シャリン、シャリン



シリンはなかなか当たらないそれに苛立ちを隠せず
動きが段々激しい乱舞に変化する。

しかし、それでも友雅の動きの方が上だった。
そして友雅は、一瞬の隙をついて溜めた気をシリンに向けて放った。


---魅了の術。


シリンはまるで見えない鎖に拘束されたかのように
その場から一歩たりと動けなくなった。



「クッ・・・」

「フフ・・・。女性に手荒な真似はしたくないからね。おとなしくしてもらうよ。」


悔しそうに唇をかみ締めるシリンだったが
何かに気づきその表情が恍惚としたものに変わる。

陰(かげ)からその様子を見守っていたあかねがそれに気づき声をあげる。


「友雅さん・・・、足元・・・・。」


はっと気づいた友雅の足元にいたのは、シリンが可愛がっていた白猫。
その瞳が妖しく光る。



「危ない友雅さん!!」



あかねは夢中で友雅に駆け寄る。


ニャア・・・


猫が小さく鳴いた。
あかねが友雅を強く抱きしめる。

吹き荒れる一陣の風。
響き渡るシリンの笑い声。





そして、友雅が気がついた時
あかねの姿が消えていた・・・。


NEXT


月晶綺憚 / 佐々木紫苑 様