月の宴

=友雅なのに号泣!?=



7

深淵の闇の中。
一箇所だけ灯る、淡いながらも穏やかで優しい光の中。


「ここは一体どこ?僕たちに何があったの?永泉様。」


詩紋はオロオロとすがる目で永泉を覗き込む。
あまり人に頼られたりという事に慣れていない永泉は
それでも、彼に元気付けようと優しく微笑む。


「私にも判りません・・・。ですが。」


そっと懐に手をあてる。
じんわりと暖かい泰明の護符にふれると、不思議と永泉の心は落ち着いた。


「絶対、大丈夫です。」


永泉はそう言うと、再び笛を奏ではじめた。
闇の中の光が、少しずつ広がっていく・・・。













残された式に泰明が術を唱えると、それは空の彼方に飛んでいった。
それの方向を確かめ

「行くぞ。」

と促す。
詩紋が消えたくだりからの説明を友雅からはじめて聞かされ
あかねはようやく今まで起きたことの流れを整理することが出来た。


「どうして・・・みんな私に何も言ってくれなかったんですか?」


そう、あかねは友雅に問い詰めたが


「怒った顔も愛らしいね姫君。」


と、はぐらかす。
そうしている間にも泰明は先に進んでしまっている。



「さぁ。我々もいかないと見失ってしまうよ。」
「行くってどこに?」
「フフ・・・。勿論、消えた皆を助けに。それが君の望みであろう?」



そう、それが。
あかねが一番したい事。
しなければならない事。


あかねはコクリと頷いた。












「神子様、橘殿、藤原殿・・・・」

何も見えない深い闇の中、藤姫は何度となく3人の名を呼びながらあてもなく彷徨っていた。
彼女はその暗闇に臆する事もなく凛とした眼差しで、ただあかね達を信じていた。

闇に包まれてから何刻経ったのか。
それすらも判らぬままに。




暗闇の彼方に薄明かりが見え気がした。
あまりに淡いそれだが、闇の中でそれはひとしお輝いて見えた。


藤姫は、それが暖かいものであると確信し、それを目指して歩き始めた。














がらんとした納屋の柱に、イノリと天真は縛り付けられていた。
イノリは、じたばたと足をもがかせながらギリッと奥歯をかみ締める。



「クソっ・・・!汚ねぇぞっ」
「フフフ・・・。何とでもお言い。」

大豊神社を訪れた二人の前にあらわれた詩紋・・・の姿をしたシリン。
それに気を許した天真たちが敵の手中に堕ちるのはあまりに容易な事だった。

シリンは優越に浸りながら二人を見下ろした。


チリン・・・


小さな鈴の音。
そこにあらわれた、毛並みの白い猫が甘えるようにシリンの足元にすがる。
シリンはそれを愛しげに胸元に抱き寄せ、優しく撫でる。



「私の可愛い子。天の青龍、玄武、白虎。
 ・・・おやまぁ。星の巫女まで手にいれたようだね。」



クスクスと微笑みながら、猫に口付ける。
猫は嬉しそうにシリンに身をすりよせた。



「てめぇ・・・!」

ギリッと天真が奥歯をかみ締める。
それをシリンは鼻であざけ笑う。


チリン、チリン


猫が何かを訴え、シリンは耳を傾ける。

「おや・・・。そう。地の白虎と玄武。それから白龍の神子がここに・・・。
 面白くなりそうだね。遊んでおいで。私の可愛い子。」



猫はニャアとひと鳴きしてシリンから離れると、すっと姿を消した。



「あかね達に何するつもりだ・・・!」

イノリは気を集中し高め、怒りに身を任せるようにそれをシリンに向けた。
紅蓮の炎がシリンに襲い狂う。
・・・しかし、それがシリンに届くよりも前に
何もなかったようにかき消された。


「私には、お舘様が施してくれた結界が貼ってあるの。何をしても無駄よ。」


憤りを隠せないイノリと天真に、シリンは妖しく微笑んだ。


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月晶綺憚 / 佐々木紫苑 様