月の宴

=友雅なのに号泣!?=



6

「これは・・・一体・・・・。」


あかねを抱えたまま友雅は周囲に気を張り巡らせる。


鈴の音・猫・風


あかねの言った3つのキーワード
それが揃ったとき、鷹通と藤姫が消えた。
それは神隠しか、それとも・・・


腕(かいな)の中でカタカタと震えるあかねをギュッと抱きしめ
友雅は自分の不甲斐なさを呪った。
あかねに悟られないように、ギリッと奥歯をかみ締める。
そして、ひとつ深呼吸。


「神子殿。落ち着いて・・・。」


あかねに囁くそれは、半分自分に対して。


「だって・・・だって頼久さんが・・・鷹通さんが・・・藤姫が・・・」


ポロポロとあかねの頬を伝う清らかな涙。


「やっと二人きりになれた・・・と言いたい所だが。
 どうか泣かないでおくれ。私は女性の涙が一番苦手なのだよ。」


友雅は、指先で優しくそれをそっと拭う。


「すみません・・・でも・・・。」


枯れることなく溢れ続けるそれ。
そんなあかねの瞼に、友雅が軽く口付けを落とす。


「本当に優しい姫君だね。安心おし、必ず君は私が守るから。
 さぁ。 早く泣き止まないとその可憐な唇に口付けしてしまうよ?」

「・・・友雅さんたら。」


悪戯に微笑む友雅の裏に、自分と同じ悲痛なものがある事に気づき
あかねはゴシゴシと涙をぬぐい懸命に涙を抑えた。


「おやおや。姫君は私と口付けを交わすのがいやと見える。」


おどけた友雅のその言葉に、あかねは頬を朱に染める。

「そ、そんなんじゃないです。」

くるくると変わる、そのあかねの表情に友雅は思わずクスリと笑みを作った。
優しく手のひらでポンポンとあかねの髪を撫でるように叩く。



「それだけ元気が出れば大丈夫だね。立てるかい?」


友雅が手を差し出し、あかねは軽く頷きながらその手を受け取る。


そこに落とした、二つの影。
それに気づいた友雅がそちらを見やる。


「おいおっさん。あかねを泣かすんじゃねぇよ。」
「ったく俺らがいない隙に何やってんだか。」


・・・詩紋を探しに出かけたはずの、イノリと天真だった。
友雅はあかねの手を引き起こしてやり
少し乱れた髪をかるく指先で整えながら悪戯に微笑んだ。


「おやおや。悔しかったら坊やたちも早く大人になって
 姫君の一人や二人泣かせてみたらどうだね。」
「友雅さん!何言ってるんですか。変な誤解しちゃうじゃないですかっ」


慌てるあかねに余裕の友雅はクスクスと微笑む。
そんな刹那に、ピーンと張り詰めた殺気が友雅を襲う。
咄嗟にあかねを後ろに庇いながら身を翻す。


シュッ


天真の手から振り下ろされた長剣。
友雅の直衣の袖にすっと一本の筋が入ると、綺麗に断ち切られた。
何が起きたのか、あかねはまだ理解が出来ず動くことが出来ない。
友雅が体制を整えるよりも前にイノリの拳が、疾風の速さで友雅を襲う。

---間に合わない。

友雅は身を硬め、身構える。
イノリが友雅の間合いに滑り込み、その拳が友雅の鳩尾にぶつかるか否かのその距離。
バチッという音と共に閃光が、そこに貫く。

二人の間に、護符が突き刺さっていた。


それが飛んできた方向をイノリが、そして天真が振り向く。
塀の上にひとつの人影。





そこに立っていたのは泰明だった。





「貴様・・・!」

イノリが泰明めがけて駆け出す。
天真は長剣を振りかざし、執拗に友雅を襲う。
あかねを庇いながら友雅は、紙一重でそれをかわしていく。


「どうしたの・・・?天真くん・・・イノリくん・・・!」

あかねの叫びはまるで届かない。
二人は徐々に追い詰められていった。






「掛介麻久母畏伎伊邪那岐大神・・・」


イノリの拳を瞳を閉じたまま、風をよけるように
ひらり、ひらりと華麗によけながら泰明は数珠片手に呪を唱える。


「筑紫乃日向乃橘小戸乃阿波岐原爾御禊祓閉給比志時爾生里坐世留祓戸乃大神等
 諸之禍事罪穢有良牟乎婆祓閉給比清米給閉登白須事乎・・・」



なかなか当たらないそれにイノリは憤り、泰明の真正面を捕らえる。

「ちょろちょろ動いてるんじゃねぇー!」


イノリは勢いつけて飛び掛り、泰明の頭上から狙いつける。
それに動じず、泰明は両目を見開き数珠がまっすぐに突き出した。


「聞食世登恐美恐美母白須!」


雲ひとつない筈の晴天の空から雷鳴が轟き
イノリと天真の頭上に雷が堕ちる。
断末魔の悲鳴。
焼き尽くされる二人の体。



「天真くん・・・!イノリくん・・・?!」



天真の元にあかねはかけよろうとするが、友雅がそれをおさえる。

「泰明さん・・・どうして・・・何でこんな・・・?」


二人が燃え尽きた後、そこに残されたのは2枚の紙人形。
泰明はそれをそっと拾い上げ、あかねと友雅の傍に立つ。



「これは式だ。二人は恐らく既に・・・。」

無表情の奥に隠された怒りの火種。

「泰明殿。鷹通殿と藤の姫君、頼久が神隠しにあったんだが・・・やはり全て関係が?」

あかねをなだめるように抱きしめながら友雅が泰明に尋ねる。




「永泉もだ・・・。恐らくこの事件は全てが繋がっている。」


NEXT


月晶綺憚 / 佐々木紫苑 様