月の宴 |
=友雅なのに号泣!?= |
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---安部晴明邸 完全に閉め切った小部屋の中 五芒星をかたどる様に五本の蝋燭の炎が揺らめいており その中央には羅針盤のようなものが鎮座してある。 「笛の音は必要ですか?」 永泉が泰明に尋ねる。 泰明は間をあけてから小さく頷いた。 「それでは・・・。」 と、永泉が懐から笛の袋を取り出したところで 泰明が何かを思い出したように部屋を立つ。 どうしたのだろうかと永泉が疑問に思うよりも先に 泰明が手に一枚の護符を持って戻る。 小首をかしげ泰明を見つめる永泉にそれを渡した。 「これは?」 今まで見たこともない護符を永泉は不思議そうに見つめながら泰明に問いかける。 「それには私が毎日少しずつ気を込めた。下手な守り札よりは利くはずだから持っていろ。」 「ありがとうございます。」 泰明のぶっきらぼうな答えのその裏に 自分に対する優しさが見えた永泉は嬉しそうに礼をのべる。 「礼など無用だ。はじめるぞ。」 「はい。」 何がそんなに嬉しそうな表情をさせたのかわからない泰明に それがわからないという事がわかる永泉はにっこりと頷く。 永泉は護符を懐にしまうと、ゆっくりと笛を奏ではじめた。 部屋の中にあるのは 蝋燭のゆらめきと 清らかな笛の音と 泰明の唱える、呪。 ---藤姫の間 突然部屋に響き渡った、その悲鳴にも似たあかねの声。 「今の声は神子様・・・」 藤姫の顔が血の気がひいたように青ざめる。 鷹通と友雅は目を見合わせ、互いに小さく頷くとそのまま席を立った。 暫くして、部屋に残された藤姫もなんとか取り直してあかねのいる離れの間の元に向かった。 離れの間の庭先に辿り着いた二人の前に あかねは真っ青な顔で膝を崩し震えていた。 鷹通は懐刀を握り締め、周囲を警戒するようにあたりを見回す。 「どうしたのだい?神子殿。頼久は?」 へたりこんだあかねのに目線を合わせるように膝を落として友雅が尋ねる。 そこでようやく友雅の存在に気づき、あかねは思わず友雅の懐に飛び込んでボロボロと泣き出した。 「おやおや。姫君が積極的なのは嫌いではないけれど そんなに泣いていては私にもわからないよ。」 友雅はあかねを抱きしめ、ポンポンと背中をさすりながら優しくなだめるように囁いた。 暫くしてようやく涙混じりにあかねが答える。 「・・・消え・・・ちゃったんです・・・・。」 その言葉に鷹通と友雅は、また顔を見合わせた。 「消えたというのは?」 鷹通が、真剣な声色でそれの意を尋ねる。 それが、詩紋の事に関係があるかも知れなかったから。 「鈴の音が・・・猫の目が光って・・・・風がふいて・・・頼久さん・・・」 まだうまく頭の中が整理しきれず、あかねはうまく言いたいことを伝えられない。 どうしたものかと鷹通と友雅は少し考える。 「神子様」 後から送れて離れの庭についた藤姫が、此方に向かいながらあかねを呼ぶ。 その声に3人ともが藤姫を見やる。 「藤姫、危険かも知れませんから部屋に・・・」 ---戻られたほうがいいですよ。 そう、鷹通が続けようとした時、またどこからか チリンチリン と、鈴の音が小さく響いた。 あかねの体がビクリと反応する。 それに気づいた友雅は、その鈴の音に何かあるのかと耳を澄ます。 「藤姫!猫・・・!離れて・・・・・」 いつの間にか藤姫の足元に、先ほどの白い猫。 それに気づいたあかねが、藤姫に向かって悲鳴に近い声で叫ぶ。 何のことだかわからない藤姫は、キョトンと小首をかしげる。 ---ニャア 猫が小さく鳴いて、藤姫にすりよる。 鷹通はあかねの言葉から断片的に何かを察すると その猫に疑問を思い彼が藤姫に近づこうとしたその時 また、突風が吹き荒れた。 友雅は守るようにしてあかねを抱きしめ、それをしのぐ。 風が通り過ぎた後、今度は藤姫と鷹通の姿が消えていた。 |
月晶綺憚 / 佐々木紫苑 様 |