※この作品には、軽度ですが明確な性的表現があります。ご注意下さい。 |
魔女の呪いを解く方法 |
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= エイプリルフール = |
あかねはふっと目を覚ました。自分を閉じ込めるように包んでいる、逞しい腕。 それが何なのか分かると自然に顔が熱くなる。 優しく、激しく。 友雅に何度も何度も愛された。最後はもう何が何だかわからなくなって ただ終わりにして欲しいと懇願していたような気がする。 少し身じろぎしただけで、体のあちこちに鈍い痛みが走った。 まるで熱が下がったばかりの時のように全身がだるくて動けない。 それでも確かな幸福感に包まれてあかねはうっとりと、すぐ傍にある温かな腕に頬を摺り寄せた。 カーテンの隙間から洩れる朝日は既に大分力強い。 誰か来る前に起きないと、と思った時、魔女の言葉が脳裏に蘇った。 大丈夫。昨夜は(必要以上に)友雅の精を受けとめたはず。 こうして今、生きているし、媚薬の副作用はないはずだ。そうしてふと不安になる。 昨夜は信じられないくらい幸せだったけれど、あれがもし、媚薬の効果に すぎないとしたら?目を覚ました友雅は自分を抱いたことを後悔するかもしれない。 自分のことを特別だと言ってくれたけれど、それすらも昔のように一時の情事に 過ぎないのかもしれない。 考え始めると後から後から不安になる。 こんな親密な距離で、友雅から拒絶の言葉を聞くのはつらい。 そっとベッドから降りようとすると、ぐいっと後ろへ引っ張られた。 「・・・・・どこへ行こうというの、あかね?君の場所はここだよ?」 半分寝ぼけた、逆らえない魅惑の声。 ぽすん、と倒れこんだ先は昨夜散々しがみつき、あるいは押さえ込まれた厚い胸。 「おはよう、あかね。何を難しい顔をしているのだい?」 ちゅ、ちゅと顔中にやさしいキスの雨を降り注がれて、あかねは少しほっとする。 「何を考えていたのか、ちゃんと言ってごらん?私の小さな魔女は、一人で色々 先走ってしまうからね、心配でならないよ。」 ぎゅっと抱き締められて愛しげに頬擦りされて。 あかねはぽつぽつと魔女とのいきさつを語りだした。 「なるほどねぇ・・・。」 あかねをしっかり裸の胸に抱いたまま、全てを聞き終えて友雅は小さなため息をつく。 例え自分への恋心が根底にあったとしても、あかねの忠義は本物だ。 昨夜、もし自分が大人の分別であかねを抱くことを我慢していたら・・・。 この柔らかな温もりを失っていたかもしれない、と思うとぞっとする。 そして愛しい存在への怒りが湧いてくる。 自分に呪いをかけたあの日から、自分はあかねのものだがあかねの全ても 自分のものだ。なのに自分に断りもなく命を捨ててもいい覚悟をするとは許せない。 ・・・私が大切にしている命を危険に晒した報いを、受けてもらわないとね・・・・・。 「あの、友雅さん・・・?」 黙り込み、抱き締める腕に力が篭った友雅を、あかねは不安そうに見上げた。 やっぱり昨夜のことは媚薬の見せた幻だったのだろうか? 突然くるりと天地が逆転し、あかねは自分がベッドに押し倒されていることに気がついた。 「友雅さん!?」 美丈夫な王子はにっこりとタチの悪い笑顔を浮かべる。 「ねぇ、あかね?君は私がそんな媚薬ごときに踊らされて君を抱いたと思っているのかい? だとしたら悲しいねぇ。あんなに愛していると言い聞かせたのに、まだ私の気持ちが わかっていないなんて。 いや、それも全て私の過去の行状のせいだね。すまないね、あかね。 君にちゃんと信じてもらえるよう、私は全身全霊を尽くして君に証明して見せるよ。 私が君だけを愛してるってことを。」 友雅の手があかねの体の上を彷徨い始める。 一晩ですっかり開発されてしまったあかねの体は僅かな刺激にも敏感に反応して。 「あ、はぁ・・ん!ちょ、ちょっと待って、友雅さん!もう朝ですってば!誰か来ちゃう・・・・・っ、 それに、私だって仕事が・・・・ああん!」 「大丈夫、こんな時に入ってくるような無粋な・・・もとい、命知らずな者はこの城には いないよ。それに、仕事だって?君は今、何よりも大切な仕事をしているだろう?」 「は?大切な仕事って・・・あ・・・あ、・・・そこっ、だめぇっ!」 身を捩り、何とか抜け出そうとしてもまるで効果はなく。 あかねはどんどん追い上げられていく。 「そう。『夏至の祭りまでに子どもを作ること』。何より優先させるべき、使命だろう?」 あかねはぎょっと目を剥いた。 「と、友雅さん?まさか、私と・・・?」 「当たり前だろう?私は君以外と閨で仲良くする気はないのだから、君に私の子を 産んでもらうよ。 君の望みは何でも叶えてあげたいからね、君が私にこの国に留まることを望むなら、 私はそれを全力で叶えてあげるとも。」 ともまさは顔を引きつらせるあかねににっこり笑い、一層腰に力を入れた。 ────── 以前は漠然とこの国を守るのだと思っていた。 それは王子として生まれた者の使命だと。だが今は。 愛しい少女が住むこの国を。 君が慈しむこの土地を。 君の望むままに、守ってみせよう。 もちろん、君がずっと傍にいてくれることが前提だけれどね───────── 主の部屋のドアの前まで来た詩紋も天真も、ノックをする勇気はなく、 ただ立ち尽くすだけだ。 漏れ聞こえてくる声で中で何が行なわれているか明らかな状態で。 幾度か様子を伺いにきて、 「・・・・まだやってるぜ・・・?」 「あかねちゃん、大丈夫かな。」 「さぁ・・・なんせ10年分溜まってるからな、ヤツも。」 顔を見合わせため息をついて。 大事な友人が早死にさせられないよう、祈ることしか出来ずに、またその場を離れる。 城はすでに夕闇を迎えようとしていた。 ◇◇◇ 魔女の家が夜に染まっていく。 昼間は普通の部屋らしく見えた室内は、見る見る怪しげな気配を漂わせる。 壁にかけられていたハーブの束からは確かにかすかな泣き声が。 そして木で作られていたはずのフクロウはパッチリと目を開けるとばさりと大きく羽ばたいた。 魔女は珍しくご機嫌に鼻歌を歌いながら夕食用の兎のシチューに、 森で採って来たハーブを放り込んでいた。 「・・・・・あの娘に渡したのは何だ?媚薬ではなかろう。」 フクロウのくちばしからはっきりした人の言葉が流れる。 昼間はその姿を木にしていても、周りの状況は見て取れる。魔女の媚薬は錠剤のはずだ。 魔女は悪戯っぽく笑った。 「あれはねー、くちなし茶よ。本音を話したくなる、お・ちゃ。」 あの娘がもし本音を押し殺して行動しているのなら、友雅の寝込みを襲うという 切羽詰った状況で、心を隠したままではいられないだろう。 もちろん副作用などありはしない。 何の打算も駆け引きもなく。 全身でぶつかってくるあんな可愛い少女に、果たしてあの取り澄ました王子は 涼しい顔をしていられるだろうか? 結果が目に見えるようで、魔女はくすくす笑いながらシチュー鍋をかき混ぜる。 ふくろうは色違いの目をぎょろりと動かした。 「どうやらあの娘を気に入ったようだな。」 「まぁねー。ふふ、そうだ!今年は久しぶりに夏至の祭りに街へ出て見ようか? でもってあの有害指定王子があの子を困らせてるようだったら、 また呪い掛けてやろーっと。」 数百年生きていると、楽しみ方も随分ひねくれてくる。 魔女に気に入られたあの少女は果たして運がいいのか悪いのか。 フクロウは小さくため息をつくと、ぐるりと頭を廻してみせた。 fin......... |
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夢見たい / koko 様 |