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My Private Paradise

= 13.疲れてるから甘えさせて?/11.元気注入 =





有給休暇が残っている、とは確かに言った事がある。
ひとつのプロジェクトがやっと終わった…と思えば、連動して新しい仕事を回されて。
こんなんじゃ、とても休みなど申請出来るわけもなく、既にもう11月半ば。
残すところ、今年もあと一ヶ月。
またも休暇を消化出来ずに一年が終わる…と思っていた。

「有休を申請しなさい。」

ようやく仕事を終えたその夜は、必ず友雅に電話を掛ける。
ぐったりと疲れた身体に効くのは、ドリンク剤より美味しい食事より恋人の声だ。
用件など何でも良いから、ただ話をしたくて、いつも電話をする。
その声に、少し甘えてみたくなって。

仕事の話をすると、いつものように彼は"よく頑張ったね"と誉めてくれた。
だが今日に限っては、そのあとで彼は前振りもなく、そんなことを言い出したのだ。
あまりにも突然のことで、何を言っているのか理解出来ないでいると、明日にでも申し出た方が良い、と更に畳み掛ける。
出来れば一週間くらいが丁度良い、と日数まで指定して。
一体何故だろう…と不思議に思ったが、既に彼には考えがあったのだ。


そして------------数日後。
舞台は木枯らしが吹き始めた日本から、エメラルドグリーンの海が広がる常夏の地へと、180度変化する。


+++++


遠くで海鳥の鳴き声がするが、波の音に消されてしまい、かすかにしか聞こえない。
有名なリゾートアイランドから、更に船で2時間の小さな島は、観光客も殆どいない穴場中の穴場。
島内にたった5つしかない水上コテージは、なだらかで浅瀬の海の上に建つ。
自炊も可能だが、専属のコンシェルジェに連絡をすれば、かゆい所にも手が届く。

籐細工のリクライニングチェアに寝転び、彼はノートPCのモニタを操作する。
普段は無機質なオフィスで行っている作業も、こんな場所なら気分も良く、そして頭も冴えて来るものだな、と友雅は思った。


ばしゃん!と近くで水音が聞こえて、友雅はそちらへと目を向ける。
海に張り出している小さなテラスからは、そのまま泳ぎに降りられる都合の良さ。
まさにここは、プライベートビーチと言っても良いくらいだ。
「おかえり、人魚姫。もう陸に上がるかい?」
「うん。随分潜ってたから…少し休みます。」
そう言ってあかねは、海の中からシュノーケルを手に上がって来た。
友雅からローブとオレンジジュースを受け取り、彼の隣に腰を下ろす。
海水を吸った彼女の髪は、まだ雫を滴らせている。

「気持ちよかったー!すごく海が綺麗で、どこまでも遠くまで見えるし!小さい魚がいっぱいいるんですよ!」
まるで子供のようにはしゃぎながら、彼女は見て来たことを嬉しそうに話す。
「もう〜海で泳ぐなんて久しぶりー。社会人になって、まず海に行くことなんてなかったもの。」
学生の頃は、友達と夏になれば海やプールに遊びに行った。
夏休みが十分なほど取れたあの頃。
今じゃお盆休みやGWも、あっという間に雑用で終わってしまう。
こんな青い海で泳いだ記憶なんて、もう消え失せてしまっていたところだ。

「それに、新しい水着なんて買ったの、何年振りだろー?」
南の島に旅行に行くので、水着でも用意しておいたほうが良いと言われ、急遽あちこちの店を探して回った。
だが、既にシーズンオフになった日本では、水着と言えばスポーツ用のシンプルなものばかりで、リゾートにはちょっと味気ないものしかなく。
結局こちらのショッピングセンターに立ち寄って、現地調達ということとなった。

しかし…やはり南国の開放的なお国柄のせいだろう。
並べられていた水着は、柄もヴィヴィッドカラーがメイン。
更にデザインも日本人の目から見れば、生地の少ないビキニが多い。
「何か…ちょっときわどい感じで、恥ずかし…」
見せびらかせるようなボディラインでもないのに、これじゃ完全に水着に負けている…と、あかねは気恥ずかしそうに、ローブの前を閉じた。

「そんなことないよ。似合うのをちゃんと選んであげたんだから。」
「でも、ビキニってよく考えると、下着と同じカッコじゃないですか、面積的には…」
確かにそう言われてみれば…。
ブラとショーツの組み合わせなのだから、同じと言えば同じだけれど。
「だから恥ずかしいって言うのかい?下着姿どころか身一つの姿を、これまでに嫌というほど見せつけてくれているのに?」
「もう!友雅さんのバカあっ!いつもそんなことばっかり言うんだから!」
顔をぐっと近付けて、とびきり艶やかな笑みを浮かべる友雅の頬を、あかねは顔を赤らめながらぺちっと叩いた。
もちろん、わざと手加減して。ふざけ半分の勢いで。


「元気になった?」
ノートPCを閉じて、友雅はあかねを腕の中に引き入れる。
ほのかに潮の香りのする髪の毛を、指先で弄びながら瞳を見つめた。
「忙しい仕事の繰り返しで、余裕もなくて疲れてたんだろう。やっぱり、たまにはちゃんと休みを取るのが重要だよ。」
「……もしかして、友雅さん、ここに連れて来てくれたのって…」
彼は肯定する返事をするでもなく、うなずくこともせず、極上の笑みであかねを見つめているだけだ。
…やっぱり、自分のために誘ってくれたんだろうか。
わざとこんな遠くへ。
現実逃避できる場所で、仕事も何もかも忘れてリフレッシュ出来るように…って。

「疲れて元気のないあかねの顔なんて、あまり見たくはないからね。」
「…そんなに疲れてるように見えましたか?」
「電話の声で分かるよ。週末なら気分転換に連れ出してあげられるけれど、平日はお互い都合は効かないし。でも、そういう時こそ疲れてる時だったんだろう?」
優しく頭を撫でてくれるみたいな、そんな声が聞きたくて電話をするのは、いつも疲れている時のこと。
本当なら、一緒に過ごせたらいいのに…と思うが、週末以外はなかなか会えない。
何せ友雅は、規模は小さいながらも、某企業のCEOの立場だ。
彼もまた、それなりに忙しい毎日を過ごしている。
でも…全部、分かってくれていたんだ。
お互いのことを考えて、甘える時期を選んでいるうちに、結局疲れを蓄積してしまっていたこと。

「頑張っているのは偉いよ。でも、あかねは元気でいてくれなくちゃね。」
友雅はそう言うと、しっかりと身体を抱きしめてくれた。
両腕で包むように優しく。
そして甘い口付けも、何度も何度も繰り返してくれて。
こんな風に…して欲しかった。
声だけじゃなくて、ちゃんと撫でて欲しかった。
触れ合いたくて、そのぬくもりで癒して欲しかったこと…。
甘えたくて仕方がなかったことを、彼は分かってくれているのが嬉しい。
「お互いせっかく取れた有給休暇だ。ここに居る間は二人きりなんだから、仕事なんてものはさっぱり忘れて、したいことをしたいだけして、楽しく過ごそう。」
「うん…。それじゃあ…ちょっとだけ甘えても…いいですか?」
こつん、と友雅の胸に額を当てると、彼はとびきり優しく髪にキスをしてくれた。
「ちょっとだけ、だなんて、そういう遠慮をするもんじゃないんだよ?。」
そう、ここは南の楽園。
現実なんか、知らない。ここにいるのは、二人だけ。
何の遠慮もいらない、特別な場所----------。


「…うん、やっぱり今日は…ちょっと塩辛いね」
ローブの中へと指を忍ばせ、背中にある小さなボタンを弾くと、あっというまに彼女の水着は滑り落ちる。
そして、まだほとんど妬けていない白い肌が、何一つ包み隠さずに現れた。
柔らかい二つの頂きを舌で味わうと、こびり付いた海水の味がする。
「や…ん、くすぐった…いっ……」
水着姿が恥ずかしいなんて言いながら、抱き合ってしまえばそんなことは忘れる。
煌煌と太陽が降り注ぐテラスで、霰もない姿をさらけ出して。
あかねの全てを味わおうとする彼の愛撫を、こそばゆそうな顔をしつつ、吐息を乱す。
「ん?でもこっちの果実は…とても甘そうな色をしてて、美味しそうだね?」
「あ、いや…っ…!そんなに舐めちゃっ…」
友雅が含んだ紅色の小さな木の実は、硬いけれどやはり甘みが強い。
歯を立てると、どことなく柔らかさもあって。
何よりも、口に含むと溢れてくるその声の甘さは、格別の味だ。
「…甘くて美味しいよ。やみつきになりそうな味だ。」
「くう…ん…」
身悶えして身体をくねらせるあかねを尻目に、その後も友雅は肌の上で舌を動かし、徐々に彼女の体温を上げて行く。

しばらく戯れたあと、友雅の指はあかねの腰へと下りてゆく。
そして、小さな布切れ一枚を脱がそうとすると、彼女の手が友雅の背中に回った。
「んもうっ…それ以上は…ここじゃだめですっ…」
「…どこならいいの?このあとは帰国してから、だなんて我侭は許さないよ?」
冗談まがいに言う友雅の言葉を、あかねはとろんとした瞳で、くすっと笑った。
「部屋の中…。ちゃんと柔らかいクッションがあるとこ…」
彼女のご所望は、ソファよりもふんわりした、スプリングの効いた広いベッドの上。

「じらすねえ。別に誰も見ていないんだから、ここでも良いんじゃないかい?太陽の下で…なんて、滅多に経験出来ないよ?」
悪戯っぽく友雅が誘うと、だって…とためらいがちにあかねはうつむく。
「籐のソファの上じゃ、身体が痛くなっちゃう…。」
普通に座っていれば、さらっとしている籐細工のファニチャー。
見た目はとても良いけれど、使用方法によっては少し身体に固く感じるもの。

「友雅さん、全然加減してくれないんだもん。ベッドの上じゃないと、腰が痛くなっちゃうの…。」
くすくす小さな声で笑う姿が、たまらなく可愛いらしいのだけれど、肌を重ねている時には、どこか艶やかに感じる。
「…なるほどね。そういうことなら仕方がないか。」
苦笑しながら納得した友雅は、彼女を抱き上げてベッドルームへと向かった。


大きな窓から見える、真っ青な海と空。流れてくる涼しい潮風。
ベッドの上に横たわると、天蓋に吊されたシルクがふわりと揺れる。
ようやく彼女の腰から最後の一枚を剥ぎ取って、一番魅力的な姿に戻ったあかねの上に、ゆっくりと友雅は身体を沈めた。
「さあ、ベッドの上なら、もう手加減はしないからね?」
「…ふふっ…良いですよ。だから…」
あかねは友雅の頬に手を伸ばし、自分からキスをして、そっと耳元に唇を寄せる。

「…帰国しても頑張れるように、めいっぱい元気注入して…?」
「そそられるね、その台詞。それじゃ私も、あかねから元気をたくさんもらって、これからも頑張れるようにしようかな。」
お互いの言葉に笑い合って、二人はそれぞれに腕の力を込めて抱きしめ合う。
唇を重ねて、身体を繋ぎあって、疲れた心は熱い想いで溶けていく。
離れずに、ずっとこうして一緒にいられる、それだけで気持ちは軽くなる。

肌が汗ばむほどの、暖かな南の国。
白い鳥が青空を舞い、どこまでも広い澄んだ海。
そしてそこには、あなたがいてくれるから…ここが今ひとときの、私だけの楽園。





-----THE END-----





皆様の素敵なお話に潤わせていただき、何だか妄想力が沸き上がってしまって、急遽滑り込みで、もう一作投稿させて頂きました。
しかし、それがR-18になってしまうとは…すいません、ホントに(^^;)。
今回はこれまでの「あかねちゃんが友雅さんを癒す」のと逆で、お仕事で疲れているあかねちゃんを、友雅さんが癒してあげるために連れ出す、という感じの話にしてみました。女の子も仕事で疲れがあるのよー!ということで(作者の叫び…笑)。
もちろんあかねちゃんとイチャつくことで、友雅さんも癒されているのですが★
お祭り最終週に、こんな阿呆な話で失礼いたしました…<(_ _)>。
右近の桜・左近の橘 / 春日 恵 様