Sandalwood

= 12.疲労回復マッサージ =





日曜日。

友雅は甘い香りと「かちゃかちゃ」という音で目を覚ました。
キッチンのドアを開けると想った通り、あかねが来ていた。

二人の休日はたいてい、あかねが部屋を訪ねてくるところから始まる。
現代に友雅が来て数ヶ月。
合い鍵を渡されたときは、あかねは丁重にお断りしたのだが
友雅から『私はこの世界は初めてなのだから、君が案内してくれるのだろう?』とか、
『つれないねぇ…、馴れないお役目から解放される休日は、あかねの愛らしい囀りで目を覚ましたいというのに…』
と言われてしまっては、それ以上拒むことは出来なかったのだ。

それで、週末はあかねが朝訪ねて来て、朝ご飯を作って友雅を起こすか、
時には途中からそれに友雅も参加しながら、一日が始まることがいつものパターンとなった。

けれど。今朝のあかねの様子は何時もと違う。
とても小さな計量容器、それから茶色い小瓶がいくつも。

『あかね、君はいつから薬師になったのだね?』

友雅の声に、あかねが振り向き笑顔で応える。

『薬師……?確かに似てるかもしれないですね。
 あと少しで終わるから、待っててください。
 ご飯にしましょう』

あかねが既に作り終えたサンドイッチとサラダを出す。
友雅は馴れた手つきで二人分のコーヒーをいれる。

二人で軽い朝食を食べながら、友雅は先程の小瓶のことについて聞いてみた。

『ふふ、あとでのお楽しみです』

あかねはそういうとにっこり微笑んだ。


──数時間後──

『友雅さん、お風呂、入りませんか?』

あかねを抱っこしながら、テレビを見ているとあかねが友雅を見上げながら提案する。

『一緒に…かい?』
『ち、違いますってば』

頬を真っ赤に染めるあかねをみて友雅は笑う。
本当に……、この地に来てからもう何ヶ月も経つというのに。
随分と長い時間をこうして過ごしているというのに、いつまでたっても、
この愛らしい姫は友雅の一言一言に反応するのだから、ついからかってしまう。

『(先程の小瓶と関係あるのだろうか…)』

おそらく聞いてもあかねは答えないだろう。友雅はあかねの”作戦”に乗ることにした。

『…ああ、では先に入らせていただこうかな』
『はいっ』

あかねは嬉しそうに返事をすると、そそくさと風呂の用意を始めた。

用意が出来ましたと言うあかねの案内に従って、見慣れた風呂に一人入る。
先程、起きたときに感じた甘い香りが風呂に充満している。
おそらく、小瓶の中身を湯に入れたのだろう。
時間が立つにつれ、少しずつ変わっていく香り。その香りの正体に気づくと思わず呟く。

『なかなか楽しませてくれるねぇ、私の神子殿は…』

果たして風呂から出ると、まだ続きがあるようで今度はベッドにうつぶせになるように…と言われる。

『おやおや、何をするつもりかな?』

そう言いながら従うと、あかねの手が友雅の背を撫でるようにふれた。
そして先程の甘い香りがまた…。

『疲労回復のアロマ・マッサージです、友雅さん。
 この間、学校の特別授業で教えてもらったの。
 …あ、勿論、女の子同士でですけど……。』

そう言いながらあかねは、友雅の首・背・腕・足とゆっくりとマッサージしていく。

『友雅さん、最近、週末起きてくるまでの時間が長くなってきたでしょう?
きっと疲れがたまってるんだと思ったの。だから…こうしたら元気になるかなって。』

うつぶせから仰向けになり、今度は胸や腹もマッサージしてマッサージを
終えると、あかねは嬉しそうに『これで終わりです』と微笑む。

『元気出ました?友雅さん』

『ふふっ、そうだね。君の手が私の身体に触れるだけでも十分に癒されるのだけれど…。まさか白檀の香りを使うとはね』

『びゃくだん?サンダルウッドって白檀なの?』


白檀の香り。その効能と言えば…。


『さて、あかね。次は私の番だね。君がしてくれたように全身、ゆっくりと癒して差し上げるよ。…勿論、構わないだろう?』
口づけをしながら、耳元に囁く。




外は望月。カーテンの隙間から見えた月に友雅は想う。

─今宵はその光も、私の月の姫に届きはしないよ…。決してね。








コメント:
 疲労回復のアロマオイルはたいていの場合、もう一つ、ラブラブな効果が…。
 サンダルウッドは白檀ですから、当然媚薬効果も…。
 裏のタイトルは『友雅・あかねの白檀遊戯』です。
 タイトルにするとネタバレになるので、出来ませんでしたが。
Drop into a reverie / 櫻野智月 様