※軽度の性的表現があります。そういったシチュエーションが苦手な方は、閲覧をご遠慮ください。
月曜日のエピキュリアン

= 15.今日はごろごろデー =





今日から、また一週間が始まる。




足早に近づいてくる、冬の気配。
カーテンの隙間から漏れてくる外の光は、日の暖かさよりも刺すような冷たさを
連想させるのは何故だろう。


答えは、すぐに出た。



今、私のいる場所が、なによりも暖かくて居心地がいいから。
日の光よりも、天国を思わせるぬくもりの中に、私はいる。
素肌が直にシーツへ触れる感覚と、愛しい人の肌に直接触れている感覚。
これ以上、気持ちの良い環境は無いように思える。


自分の身体に意識を向ければ、満腹感に似た、気だるい重さ。


自然とそれが引き金になり、昨晩…いや、つい2時間半ほど前まで、
この身に起きていた出来事を思い出してしまう。


なんだか、いたたまれない。


細かいところまで思い出せそうで、思い出せない…いや、思い出したくないアレコレ。
頭では拒否しても、身体の記憶は容赦がない。



あーあ、睡眠時間3時間切ってる…。
…今日、学校あるのに。



自身、気がついてはいないが、困ったとも、まんざらでもないとでも、どちらとも
取れるようなため息をつく。
シーツの間から、そっと自分の胸元をのぞけば、よくここまで…と、感心するほどの
侵略痕。

自分の胸元を確認したときと同じように、隣で眠っている食い散らかしの犯人である
男をコソコソ伺う。



犯人は、満足そうに心地よさそうな寝息を立てていた。



その様子が、まるで満腹で幸せそうに眠る、間抜けなライオンを連想させ、少し笑って
しまった。



少女が笑う微かな振動で、間抜けなライオンが目を覚ます。





「ん…なに…?起きたのかい?」




もそもそと、片肘で身体を支えながら起きあがる。
その際、身体を覆っていたシーツが肌をスルスルとすべり落ち、彫刻を思わせる完璧な
ラインを描いた男の上半身が露わになる。
朝とはいえ、厚いカーテンで閉ざされたままの室内では、いつも以上に肌の色が艶めか
しく少女の目に写り困ってしまう。
そんな少女の思いなど素知らぬふりで、男は、たてがみを思わせる緩やかなカーブを
描く長い髪を、無造作に右手で梳き上げた。



同時に、ふわぁぁ…と、あくびを一つ。




「いま、何時?」




寝起き特有の、通常より幾分低く掠れた声は、間抜けなライオンに似合わないセクシーな
匂いがする。
少女は、男の言葉を受け、くるりと身体の向きを変え、ベットサイドに置かれた小さな
テーブルへ手を伸ばす。


その際、今度は、少女の肌を隠していたシーツが、スルスルと滑り落ちる。


男に背を向ける体制のため、必然的に、少女の白い背中を男の目にさらすこととなった。


寝起きだというのに、男は意味ありげに微笑む。

少女の手の長さを考慮に入れ、絶妙な距離に置かれているサイドテーブルは、男の思惑
通り今朝も良い仕事をしてくれたようだ。


そんな男の思惑など、つゆ知らず、少女は男の目を楽しませるという犠牲と引き替えに
手にしたヴァシュロンコンスタンタンの腕時計で時間を確かめた。




「6時…半…って、ヤバッ、早く支度しなきゃ。」




ポイッと腕時計を男へ向かって放り投げ、ベットの下に散らばっている衣類を掻き集める。



とにかく、まずシャワーだ。



ここから学校までの距離を考えると、いつもより早く出なきゃいけないから…
ぐずぐずしている暇はないんだった。




起きてすぐ、パッパと動ける少女とは違い、男は、酷く朝に弱い質だった。
なかば、呆然とした表情で、サクサク動き出す少女を見ている。
だが、じわじわと寝ぼけていた頭が覚醒していくにつれ、ムッとしてきたらしい。
2人だけの楽園であるベッドから、自分を置いて、颯爽と飛び出して行こうとする少女が、
今更ながら憎らしくなったのだ。




恋人らしい情緒が欲しいところだ。




「あかね」




男は、ムッとする感情そのまま、その美声にのせ、少女の二の腕を捕らえ、
自分の陣地であるベッドに引きずり戻した。


男に、『あかね』と呼ばれた少女は、男の胸の中へ引き戻されたことに腹を立てる。




「もーっっ、時間がないんです!学校遅刻しちゃうっ。友雅さんもお仕事でしょ?
そんな悪ふざけしてないで、出勤の準備しなくっちゃ。」


「…私は、今日休みだよ。だから、あかねも学校休みなさい。」


「は?」




なにが『だから』なのか分からない。
なにを拗ねているのだ?この大人は。




呆れて思わず動きが止まる。




少女から『友雅』と呼ばれた男は、大人しく自分の腕の中に少女が留まっている事に
満足する。
先ほどまでの苛立ちが静まり、妙な安心感を覚えていた。




これで、あかねから甘いささやきを返してくれる…などというスキルがあれば完璧な
んだが…。
まあ、スッと腕の中から飛び立ってしまうことを考えれば、この小鳥が留まって
くれるだけで由としなくてはならないか…。




「一日の始まりに、恋人へかける甘い言葉とか無いのかい?さっさとベッドから
出てしまうなんて、肌を重ねた相手に対してのマナーがなってないな。」




そこまで口にして、ふと過ぎった…そっけない少女と重なる過去の自分。

過去、自分の前を通り過ぎていった女達の言葉と…同じことを口にする、今の自分。




…あの女達に、今の自分を見られたら、因果応報と指を指されて笑われるな。




友雅は、自嘲的なため息をつく。




それを、あかねは子供扱いされたととったらしい。




「仕事があるのに、朝っぱらからダラダライチャイチャして、仕事遅刻する方が
社会人としてどうかと思います!」




つーん、と、友雅が望む甘い言葉など簡単に口にしてくれない。




「私は、今日休みだから問題ないだろう?」


「私は今日、学校です。勉強は、学生のお仕事です。」


「未成年は、大人の言うことは聞いておくものだよ。」


「いくら未成年でも、堕落した大人の言うことなんて聞かなくて正解だと思います。」


「では、なぜ…」




だだっ子モードから、いきなりトーンダウンする男の声色に、ゾクリとする。


あかねは、その感覚が、声音の色気に当てられての感覚なのか、嫌な予感という意味
での感覚なのか、判断に困る。


後ろから抱きしめられる形で、動きを封じられているあかねは、恐る恐る首を回し
友雅の表情を伺った。




あかねの目に映ったのは、完全にスイッチの入った、男の顔。




うわっ、悪い顔してる…。




予感的中を確認し、大きく目を見開いているあかねに、心の中でほくそ笑んで、友雅は
甘い毒を思わせる声音で言葉を続けた。
囁いている間、耳をふさいでしまわないように、あかねの腕をつかんで拘束する用意
周到を見せながら。




「…では、なぜ…昨日の夜は、こんな堕落した大人の言うことを、聞いてくれたのかな?」


「!!」


「あかねは狡いね、昨晩だって、私がお願いすることは、嫌だ嫌だと反抗するくせに、
結局は…喜んで受け入れていたじゃないか?」


「!!」




ビクッと、自分の腕の中で反応するあかねに、友雅は、言葉を突きつけた。




「私の言うことが、正しいって、昨日…」




つかんでいる少女の腕を解き、スルスルと、意味ありげに撫で上げる。




「昨日、あれだけ身体で体験したって言うのに…聞き分けのない子だ。」




声と、男の不埒な指先のいたずらとのダブル攻撃で、昨晩のいかがわしいやり取りを
生々しく思い出してしまう。

  




    私の言うとおりに、してごらん。きっと、とてもよくなる…から。

    ふふっ、ほら、…イイ、だろう?

    ああ、そんなに可愛い顔しないで。
  
    もっと、いろいろしたくなるじゃないか。
  
    私の言うことを素直に受け入れて?
  
    そうすれば…最高の快楽を味わえるからね…?

    どこへだって、連れて行ってあげよう。
  
    …天国だろうと地獄だろうと…ね。

    ふふっ、さあ…、君は、どっちに行きたい?





昨晩、嫌がる自分を、手練手管で堕としていく様が、頭を巡る。




結局は、男のいいようにされてしまった悔しさ、
居たたまれない恥ずかしさで消えてしまいたいと追いつめられた行為の数々。
なのに、男の言うとおり、恥ずかしさと比例するように、強く喜んで受け入れる自分を
自覚していく。



甘くて苦い罪悪感。



ついには、それらを上回っていく、自分では制御できない感覚を思い出し、
知らず知らず、あかねの息が乱れる。




あれは、果たして、友雅さんが言った『快楽』だったのか…。
もしかしたら、『苦痛』だったのかもしれない…。





くやしいけれどあかねのスイッチも入ってしまったようだ。

こくんと喉を鳴らしてしまった少女を確認して、友雅はとどめとばかり、目で問いかける。




もう一度…その身体に教えて差し上げてもいいのだがね…?

どうする?




決して、言葉で言わないところが、この男の狡いところ。




「…こんなこと、いい大人がすることじゃないって…分かってる?」




その言葉が、今の少女に出来る、精一杯の抵抗。



男は、自分の勝利を確信して、緩む頬を止められない。
それ見つけた少女は、丸め込まれた自分が悔しくてたまらない。

なのに、共犯者になるべく…テストも終わったし…などと、休んでいい理由をアレコレ
画き始めている自分もいて。




「…今日だけ…もうこれ、一回きり…ですからね?」




と、完全降伏の宣言と共に、悪い大人の誘いに応じる、確信犯のキスを仕掛けた。










おわり




あとがき

えー、何一つお題をクリアしていないような気がするんですが…。
といいますか、どれをお題にすれば、こんなアホ話が出来るんだ?って声が聞こえ
てきそうな出来映えですみません。とりあえず、「勤労感謝」がテーマで書き始めま
した…。
そして、「勤労感謝」がテーマです!って思ってます。私は。←言ったもの勝ち☆
でも、とりあえず、わかりやすいところで「今日はごろごろデー」っていうのを表だった
「お題」に設定しました。
皆様、日々のお仕事お疲れ様です。(学生さんも、お勉強がお仕事ですからねぇ〜)
そんでもって、お仕事頑張っている2人が、ちょっと?ずる休みという息抜きしちゃうっ
て話で、勤労感謝を表現したかったんですが…ゴニョゴニョ
たぶん?この話の2人は、うちのHPの外科医設定ってことにしてます。私の胸の内で
は…ですがグダグダになってしまいました。
つーか、今、自分(私)が、「仕事ずる休みしてぇーなぁ〜」って気分だったので書いちゃ
ったってところです。
私は、土日が定休日の仕事をしているので、月曜日に休むってのは、妙に
「やった〜☆」感があります。(笑)
月曜日の朝、二度寝が許される幸福感…いつまでも、いつまでも布団の中でゴロゴロ
の優越感vvv朝のワイドショーだって見放題さ☆うふふふふ〜な、あの感覚☆
そんな中で、2人をいちゃつかせてみました。
タイトルの「エピキュリアン」ですが、「快楽主義者」という意味なのです。
ええ、月曜日の朝っぱらから、何やってんだ?こいつらは?あ〜ん?!っていう、
そのまんまのタイトルなのでした。自堕落万歳です。←要反省☆
…勤労感謝の、勤労精神にはほど遠い2人でしたが、少しでも楽しんで頂けると
幸いです。
青の王様 / ちか 様