※この作品は年齢制限を設けています。18歳未満(高校生含)の方は閲覧を控えてください
泡沫の逢瀬に吐息を重ねて
(うたかたのおうせにといきをかさねて)

= 14.秘密デートでリフレッシュ =





  ぱちり、ぱちり、規則正しく蝙蝠の開閉の音が近衛府内に響く。

  しかしその無機質な音が不機嫌そうに聞こえるのは、決して気のせいではないだろう。
  その証拠に日がまだ高いというのに、左近衛府には誰一人として人がいない。
  正確には皆何処かに逃げ隠れているのだ、男の禍々しい雰囲気に耐えられない為に。


  
泡沫の逢瀬に吐息を重ねて



  左近衛府少将 橘友雅、今彼の機嫌は超絶最悪だった。
  なにせここ暫く、最愛の幼妻と全く逢えていないのだから。
  並み居る強敵達を様々な手段を用いて捻じ伏せて、やっと手に入れた桃源郷の月の姫。
  その花のかんばせをどれ程、拝めていないことか。

  更衣、残菊宴、玄猪、新嘗祭、豊明節会、賀茂臨時祭
  流石は実り多き豊穣の時期、宮中の祭事や宴が引きも切らない。
  勿論その全てに、武官である友雅が関わる必要性は全然ないのだが
  何せ居るだけで華のある男なのだ、宴などはさぞかし盛り上がる事だろう。
  公達の興味の噂話でも事欠かない人物。
  帝の懐刀であり、あの斎姫を北の方とした彼が、引く手数多となるのも
  ある意味、自然な流れだろう。
  断りたいのは関の山、だが何故か全て警護の名目で任として仰せ付かっているのだ。

  宮中にいる間は、艶やかな蝶にもあぶれる事はなくて、昨年までは
  それなりに楽しく過ごしていたのだ。
  五節の舞姫達とは、どれ程戯れた事だろうか。
  ただ、それでも全く邸に戻れない程、宮中に縛られる事はなかった筈だ。
  
  そして今日は全ての行事と宴の任も終わり、邸に戻れる筈だったのに!?
  急に、後一夜の宿直を申し渡されたのだ。


  飄々とし捉え所のない、色恋においてもどこか一線を引いた感のあった男が
  毎日折を見ては、せっせと幼妻に文をしたためる。
  彼女もまだ慣れない文字で、懸命に文を書いて返してくれる。
  その辿々しいが愛らしい文字と侍従の香る銀の文を見て、ほんの少し目許が和らぐが
  文面は彼が望むものではなかった。

  今、土御門に居ると言う事と、中宮が宿下がりをしていると言う事。
  友雅は忌々しげに奥歯を噛締める。

  この豊穣の時節に、中宮が宿下がりなど。
  一応、体調が芳しくないからとの大義名分があるらしいが
  もうこれは、明らかに妨害工作と言わざるを得ない。
  邪魔な人物が居ない間、あかねと一緒に居たいが為に中宮が帝に縋りついたのだろう。


  折角、今日は帰れると思いご機嫌だったのに、急な命で急転直下。
  鬼さえも倒れてしまいそうな、禍々しい瘴気を放っている雰囲気の男に
  誰が好んで近寄るものか。

  はちり、また蝙蝠が鳴る。



  「友雅」


  
  不意に声を掛けられて振り返ってみれば、そういう事を全く意に介さない人物。



  「・・・何か用かい、泰明殿」  
  


  泰明は無言で札を友雅の前に翳すと、小さく呪を唱え札を握り潰す。
  潰された札は真っ黒な焔を上げ、一瞬にして跡も残さず燃え尽きた。



  「酷く凝り固まった陰気があると思って来て見れば、正体はお前だ。
   一体何が遭ったのだ?」

  「ここ暫く白雪と逢ってないからねぇ、穢れでも溜まったのかな」

  「異な事を言う、神子はもう神子ではない穢れなど祓えぬ」

  「私の穢れは特殊なのでね、彼女しか祓えないのだよ」

  「・・・そうか、分かった」
  
  「泰明殿?」

  「容易くその様な陰気を、内裏に持ち込まれては敵わぬ」



  事も無げにそう告げると、泰明は踵を返し戻っていった。








  一刻ほどして、友雅の元に火急の物として文箱が届けられた。
  それはいつもの、あかねからの文箱。
  彼女に何か遭ったのかと、急いで紐を解き蓋を開けると

  ぽん!

  と軽快な音と煙がたち込め、その煙がすっと音もなく消え去ると我が目を疑う光景が



  「友雅さん、大丈夫ですか!?」

  「み・・・こ、殿?」



  そう、そこに居たのは今となっては懐かしい龍神の神子姿のあかね。
  それは衣だけではなく、髪の長さや、表情や雰囲気的なものも
  あの時間に逆戻ってしまったかのようだ。



  「泰明さんの式神が来て、友雅さんの具合が悪いって、私が必要だって言うから。
   宮中にはおいそれと行けないし、無理を言って私の姿の式神を打ってもらったんです」

  「では、私の目の前にいる白雪は泰明殿の式?」

  「はい」


  
  嗚呼と、感じる違和感に納得する。
  友雅は今現在の彼女の様子を熟知している、だか泰明にとっては『神子』のままなのだと。
   

  
  「本当の私は、土御門の塗籠の中に居ます」

  「何故、そんな所に」
 
  「式神に込めた私の気が散らないように、だそうです」

  「まぁ、式にせよ何にせよ、久方ぶりに逢えて言葉を交わせるのは嬉しいねぇ」

  「私もです・・・やっぱり寂しかったし・・・
   って、それよりも体は大丈夫なんですか!?」

  「うん?」

  「だって『友雅の穢れがたまってるから、神子が祓え』ってぇ
   もしかして、嘘だったんですか!」

  「ふふ、穢れが溜まっていたのも、疲れていたのも、本当だよ。
   そしてその疲れを、あかねしか癒せないのもね・・・おいで」  


 
  悠然と微笑んで両手を大きく広げる姿からは、先程までの
  瘴気まみれの男の気配は微塵もない。
  その気を簡単に払拭してしまった分、あかねの破魔の効力は流石と言えよう。
  勿論『神子』の能力などではないのだが。

  あかねは軽く溜息を零すと、素直に友雅の膝の上にぽすんと納まる。
  その感触に友雅も驚いた。
  泰明は人形の式は好んで使わないが、師匠の安倍晴明が泰明の姿を模した式を
  使っているのを知っている。
  実際何度か驚かされたこともあり、その被害は八葉ならば一度は皆経験している。
  満面笑顔の泰明など、用件を果たす目的と言うより、ただ単に面白がって使っているようだ。
  だから、ある程度は人の雰囲気を保っているとは思うのだが
  腕に抱き留めた感覚、身長や体重、人肌の温かさや僅かに香るその匂いまで
  いくら本人の気を込めた式とはいえ、ここまで見事に再現できるものなのかと。

  ・・・陰陽師が、泰明で本当に良かった思い知った・・・

  自分の手で作り出せて、ここまで本人と瓜二つに出来るのなら、好き勝手に出来るのなら
  普通の男ならば邪な想いを抱くだろう、不届きな行為に手を染めるかもしれない。

  幸い泰明には、その手の感情はほぼ無いといっていいらしく
  今の所、気に病むような事態には陥らないで済みそうだ。


  だが流石の完璧な陰陽師が作った式でも、若干の違和感は否めない。
  何と表現したらいいか、まろみ感と言うか、馥郁たる芳香と言うか
  友雅のみが知り得る、彼が手塩にかけて刻み込んだ味わい。
  何となく物足りなくて先程頭を掠めた悪戯な想いも加味し、軽く耳を甘噛みしてみる。



  「ひゃっ! 友雅さん何するんですか」

  「おや、いつもと変わらない反応だねぇ。
   ・・・ひょっとして、感覚もあるのかい?」

  「私を丸々映した、特殊な式神だって言ってました。
   だから感覚もありますし、強力な分の気を散らさない様にこうやって塗籠に、って
   やっ! ちょっ!」


  
  あかねの声が、だんだんと慌てた様な非難めいたものになる。
  友雅の不届きな手の動きが、本格的なものになり始めたからだ。

  今となっては着ることも無くなった、水干と異世界の『せいふく』とやらの装束。
  水干の裾から手を入れ『ぶらうす』の『ぼたん』を外し『ぶらじゃー』をたくし上げる。
  弾ける様に零れ出た双丘を丹念に揉み解す。


  
  「とっ、友雅さん!?」

  「『溜まった』穢れを祓ってくれるのだろう?」

  「そーゆー意味合いじゃありませんっ! ってか、ここ職場でしょうっ!!」

  「大丈夫、全員出払って誰も居ないし、当分帰ってこれないさ」

  「そういう事もですけどっ、お仕事の場所でっ、こんな時間にぃっ!!!」



  的確に遠慮なく弱点を弄るものだから、あかねの制止する声も途切れ途切れに
  悪戯を防ごうとする手も嗜める声も、次第に力が入らなくなってくる。  



  「あっ、きゃうぅぅう・・・もっやぁ・・・んんんんっ!」
  
  「・・・驚いたね、とても式神とは思えないよ・・・」


 
  抑え込んではいるものの、あかねから醸し出された艶めかしさは
  まさしく友雅が、毎夜に仕込んだあの味わいで。
  肌理の細やかな肌が、薄っすらと赤く色付く様子など
  山々を鮮やかに彩り装う、紅葉の様で
  ほんの些細な悪戯のつもりだったのに、先に進むつもりなんかなかったのに
  自分でも思った以上に、彼女に餓えていたらしい。

  ・・・堪らないねぇ・・・

  渇ききった喉に生唾を押し込む。

  

  「以前、ちらりと思ったのだけど、この装束はこういう時に便利だよねぇ」

  「・・・え?」


  
  自身は高床に腰掛けて、更にその上にあかねを座らせた状態。
  僅かに足を崩し、彼女の足と絡め動けないように固定する。
  『すかーと』を捲くり、そのまま片手を『したぎ』の横から滑らせ無遠慮に弄び始める。


 
  「ほら、砦の守りが甘いからこんなにも簡単に賊の侵入を許してしまうだろう」

  「やぁ! もう、友雅さんっ!!」



  情欲に染まり始めた潤んだ目で睨みつけられようとも、その視線に静止効果はなくて
  愛しいと、可愛らしいと、いじらしいと・・・もっと啼かせてみたいと
  骨の髄まで溺れきった、この男を焦らし煽っているだけだ。
  頬や耳や首筋に丹念に舌を這わせ嘗め回し、胸は形を変えるほど捏ね実を指で摘み転がす。
  容易く侵入を許してしまった蜜壷には、早々に指二本が埋め込まれ掻き混ぜられていた。
  

   
  「あっ・・・くぅっ!」



  場所柄だけに、あかねは歯を食い縛って友雅の執拗な悪戯に耐える。
  だが開拓者の手淫は正確無比で、意識よりも躰が正直に応えてしまう。



  「紙で出来ている筈なのに、濡れても溶けないのだね。 
   あぁ、でもここはとろとろに蕩けているけれど・・・ねぇ」

  「イッ!」



  胎の最も弱い箇所を指で何回か突き上げると、きゅうっ!と締め付て
  どうやら軽く達してしまった様だ。
  


  「・・・はぁ・・・と、友雅さん・・・こっこれ以上はダメ
   ・・・気が散っちゃう、式神が保てなくなっちゃう」

  「おや、本当に逝ってしまうという訳かい」

  「だから、手を・・・っつ!!!」



  ためしに華芯を暴いて押し潰す様に前後に擦り上げてみると、小刻みに肢体を震わせ
  快楽で愁眉を寄せた艶めかしい表情のあかねの姿が、一瞬残像のように乱れる。


 
  「どうやら、本当のようだねぇ」
 
  「なっ、なんて確認を仕方をっ・・・それにまだ指がっっっぁぁあぁっ!」

  「ふふ、少し惜しい気もするよ」

  「えぇ?」

  「だって、其方では白雪は一人で塗籠の中で身悶えているのだろう」

  「みもっ、って!」

  「さぞかし淫靡で蠱惑的な光景なのだろうと、是非とも拝んでみたいものだ。
   ・・・ね、帰ったら再現して見せてくれる?」

  「そっ、そんな事出来る訳ないじゃないですかぁぁぁぁぁっ!!!!!」

  「それは残念」



  とんでもない要求を突きつけてくる男に、抗議の意味も込めて肩越しに振り向き叫んだのに
  余裕綽々にかわされてしまい、あかねの血圧は上がる一方だ。


  ふと、遠くで小さな鐘の音が響いたかと思うと、友雅は大きく溜息を吐いた。



  「・・・本当に残念だ、もう仕事に行かねばならない時間のようだね」

  「えっ! あっ!? きゃぁっ!!!」



  あかねの体を反転させ、へたり込まないように自らの腕を彼女の腰下の支えとすると
  互いに膝立ちの状態で向かい合う。
  口付けを交わし口内の隅々まで堪能して、名残惜しそうに離れた。



  「あと一日、いいや半日したら帰るから」

  「は・・・い・・・待ってますね・・・」

  「約束だよ、どんなに中宮様と藤姫に止められても、邸に帰ってくれないと駄目だよ。
   でないと・・・この程度では済ませられないからね」

  「んっ!」
 
  

  再び貪るように唇を奪い、蜜壷に穿った指を激しく挿抽させる。
  一気に快楽の階段を駆け上り、桃源郷へと導く為に。



  「んっ! んんんんっ!!  んーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」



  口を塞がれ逃げ場の無い嬌声は、吐息と呻きに取って代わられて
  愁眉を寄せながらひくりと痙攣し、背を反らせ全身が硬直した瞬間
  あかねは、白い霧に掻き消えるかのように姿を消した。
  
  あれほどに感じていた、温もりも、匂いも、情事の痕跡さえも微塵も無く
  ただ友雅の足元に、破れた一枚の人形の紙が落ちているだけだった。








「友雅」

「おや、泰明殿」

「穢れは祓えたか」

「十分、とはいかないがねぇ」

 

宿直所に向かおうとしていた友雅を泰明が呼び止め、術の効果の程を確認すると
いけしゃあしゃあ、とそう言いながら、破れた式神をひらひらと振ってみせた。


 
「ふむ、確かにお前の気の廻りはいい・・・が、神子の気が乱れている」

「どんな風にだい?」

「・・・不可解だ、理解できぬ・・・憤りと喜び、相反する気が交錯している」

「ふふ、だろうねぇ」

「だがお前には、神子が提案したこの術は有効なようだな。
 これからも穢れが溜まったら、使うか?」

「いや、遠慮しておこう。
 穢れが溜まる程、白雪に逢えないなんて御免だよ・・・それに」

「何だ」


有効な物を使おうとしないことに、泰明は微かに怪訝そうな顔をする。
そんな思いを知ってか知らずか、友雅は自嘲気味に笑って


  
「一度きりだなんて、勿体無いだろう」






舞一夜ベースのお二人さんです

リフレッシュする相手が式神って!?
節操ナシの困ったチャンですが、本番ナシなので一応は節制かw
(いくらあかねちゃんの式でもねぇ、ソレは違うでしょ☆-ヽ^_^;)

そしてやはりあの、満面笑顔のやっすんの式神は笑撃的でw

折角のお祭りなのに、爛れた十八禁モノですみませ〜ん(><)
姫君主義 / セアル 様