はーとの気持ち

= ふふ…大丈夫。君の方が…甘いからね?(微笑) =





おまけ



  次の日、意気揚々と左近衛府に出仕して来た友雅に部下たちはホッと一安心。
  気分屋の友雅の事、部下に当ったりする事は無いが【揶揄う事はあっても】
  機嫌が悪い時など、その雰囲気だけで仕事にならないのだ。

  昨日は何事かあったのだろう、友雅は一日中ソワソワして彼の仕事が滞ってしまい
  そのとばっちりを受ける羽目になるのだ。
  ・・・まぁ、それでもまだ良い方の『機嫌の悪さ』なのだが・・・

  あの様子では、昨夜は満足いくものだったのだろう。
  『奥方には申し訳ない!』と人身御供に謝罪するかの様な気持ちで
  部下達は思いを馳せていた。

  そこに一つの暗雲の種が・・・


  「友雅、居るか」

  「おや、これは泰明殿、こんな場所に来るなど珍しい」

  「問題ない、神子に伝えて欲しい
   昨日は『ばれんたいん』とやらの『ぱんけーき』頂戴した・・・美味かった・・・と」

  「・・・・・・・・はっ!?・・・・・・・・・」

  「頼んだぞ、友雅」


  友雅は、用件だけ告げて立ち去ろうとする泰明の袖を掴んだ。


  「何だ?」

  「どうやって、あかねの『ばれんたいん』の『ぱんけーき』を手に入れたんだい?」

  「昨日、神子の文と共に届けられた」

  「食べたのかい?」

  「食した、美味かった・・・友雅は食していないのか?」

  「・・・食べたけれど」
  
  「だろうな、恐らく他の者にも届けたのではないのか?」


  その瞬間、房の雰囲気が変わった。
  部下の誰しもが『拙い、最悪な時の空気だっ!!』と身を凍らせた。
    

  「? どうした友雅、気が乱れているぞ」

     『あぁぁぁ陰陽師殿、それ以上、少将殿の逆鱗に触れないで下さいぃぃぃ』

  「ふふふ、何でもないよ」

     『少将殿っ! 限りなくその薄ら笑顔が恐ろしいですっ!!』

  「ではな、友雅」


  泰明が近衛府から出て行った後も、友雅も部下も動けないでいた。
  だが、房の温度がどんどん下がっていく様に感じるのは果して気の所為だろうか!?


  「・・・・・・・・・あのっ」

  
  覚悟を決め、一人の部下が話し掛けようとした時


  「すまないが、用事を思い出したのでね、今日はこれで帰らせてもらうよ」


  友雅は振り向く事無く、そう言い放つと房から出て行った。
  出仕したばっかりだろ!と突っ込みを入れられる様な命知らずはおらず
  この状態で刻限まで居座られても他の者の仕事に差し支える。
  友雅の分の仕事は、部下の肉体的負担になるが
  あの絶対零度の雰囲気を浴び続ける、精神的負担に比べれば、遙かにマシだろう。

  部下達は一斉に溜息を零し、ポツリと呟いた。


  「少将殿の機嫌は、奥方の胸三寸・・・全く御人が悪い御方だ」






  友雅が駆使して集めた情報によると『ぱんけーき』は
  京の八葉(頼久、イノリ、鷹通、永泉、泰明)と藤姫にも贈っていた事が分った。

  その後、邸に帰った友雅があかねに拗ねまくったのは言うまでも無い。
  あかねもバレンタインには、本命チョコ、義理チョコ、友チョコがあり
  他の人に贈ったのはそれで、ハートの形のを食べたのは友雅だけだと説明したが
  自分一人だけと有頂天にいた、三十一歳男の駄々は根深かかった。

 

  物忌み、方忌みを連発して、数日間あかねを独り占めし甘えまくったのは、ご愛嬌?




姫君主義 / セアル 様