□ 変愛関係 □ |
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= 食べちゃ駄目かな? = |
注意)友雅がドM。あかねがドSです。変態同士で少々変態プレイありです。 それでもよろしければ、↓スクロールどうぞ。 □ 変愛関係 □ ちゅん、ちゅん 簀の子縁に撒いていた強飯を啄みにきた雀を眺めながら、あかねは溜息をついてた。 御簾から入り込んだ清々しい風が、脇息に凭れて横に放り出した素足を撫でていく。 長閑で、穏やかで、静かな時間。 けれど、退屈でつまらなくて、苛立つ時間でもあるのだと、彼女は言う。 あかねは再び溜息をつくと、一緒に外を眺めていた男から奪った蝙蝠をぱたりぱたりと弄び始めた。 「神子殿、退屈ならば絵巻物でも読んで差し上げようか?」 機嫌をとるような声音を出してしまうのは、致し方ない。 「それとも、双六でもする?」 じり、と距離を詰める。 白くて傷一つ無い眩しい脛を視界に納めながら、けれど直視することの出来ない息苦しさ。 「今日は琵琶を持ってきたんだ。君に気に入ってもらえるかどうかは分からないけど…良かったら弾こうか?」 返事をしないあかねの顔色をうかがうが、何の反応も見られずに、ただ怒らせないようにと慎重に近づく。 彼女にとっては生まれて初めて出来た、恋人。 彼にとっても、初めて心から求めた愛しい人。 けれど生まれ育った世界は違う。身分が、などという問題ではなく…そう、時空が違うのだ。 交わるはずの無かった時が交差し、そして出逢ってしまったふたり。 「…そんなにつまらなそうにしないでおくれ。花が萎れたような顔をされては…哀しくなってしまうよ」 どこまでも反応することのない彼女の隣で、はふり、落胆する吐息を漏らす。 彼らが想いを交わしあってから、変化することのないふたりの関係。 友雅は彼女の逆鱗に触れぬよう、機嫌を損なわぬよう、いつでも気を張っていた。 「どうすれば笑ってくれるのかな、私の姫君は。君のために出来ることは、何か無い?」 少しからかうように、戯けてみせる。けれど困惑の色は隠しきれない。 そして、目の端に映るスカートからすらりと伸びる美しい脚に感じる、欲望も。隠すことなど不可能だった。 彼女は不機嫌そうな顔をしているが、けれど実際に怒っているわけではないのかもしれない。そんな楽観的な思考が過ぎる。 活動的な少女であるのに、物忌みで外に出られない退屈のため、へそを曲げているだけなのかも。 本当に腹を立てている時の彼女なら、手を伸ばせばその髪に、頬に、触れることの出来るような距離に、人を近づけることさえないのだから。 まるで猫のように、気のない素振りで周囲を翻弄してみたり。ごく稀に擦り寄ってみては、手を伸ばされて身を翻す。 しかし基本的に、心の中まで踏み込ませることのない人。 けれど、友雅とは自他共に恋人同士だと認めてくれているのだから、不可侵と思われた彼女の内なる領域に、招き入れてくれたのだと思っていいはずだ。 友雅は少しだけ浮上した気分に後押しされて、先程から触れたくて触れたくて、自分を誤魔化すしかなかった彼女の脚に手を伸ばした。 壊れ物を扱うかのように、震えそうな指でそっと触れる。 中指で左足の甲を辿り、感触も拾えないような距離で足首まで進み。 ちらと横目で盗み見た彼女の表情は、先程と何ら代わりはない。 もしかして触れることを許してくれたのかと、四指の腹を使ってそっと触れる。 激しくなっていく鼓動で、耳鳴りがした。 恋人とは言っても、滅多なことでは触れさせてくれない彼女だが、静寂に飽いていただけだとしても、許可してくれるのかと思えば歓喜で眩暈がするほどだ。 滑らかな絹肌は、何度も味わったわけではないけれど、決して忘れることなど出来ない心地よさで。 吸い付いて舌を這わせれば、どれほど甘いだろうかと想像するだけで、身体の芯が疼き出す。 それほど、友雅は彼女に惚れていた。 が、 「誰が、触って良いって言ったんですか?」 地を這うような声に、ビクリと肩を竦ませる。 「あ、あかね…けれど…」 「ねえ、友雅さん。誰が私の足に、触れて良いって言ったの?教えて?」 恐る恐る彼女を見ると、満面の笑みで友雅を眺めていた。しかし、瞳はその表情を完全に裏切っている。 小首を傾げる仕草の愛らしさと、その怒りに満ちた笑まい顔と、あまりの相異に背筋が凍る。 「私、勝手に触るようなこと、許してましたっけ?ねぇ、変態さん?」 たらぁり、たらり。嫌な汗が額を流れ、頬を辿る。 「す、済まない。悪かったよ、あかね!どうしても、どうしても我慢が出来なくて…っ!」 「私がイライラしてるの、分かってますよね?いくらアナタみたいなエロ河童でも、私の機嫌くらい、分かりますよね?」 「あ、ああ。分かるよ、分かるとも。それなのに勝手に触れて、済まなかった。許しておくれ、この通りだから…」 居住まいを正し、主上にもしたことの無いような礼を尽くす。いわゆる、土下座というヤツだ。 額を床にこれでもかと叩きつけ、ゴリゴリと擦るようにしてひたすら謝罪を。 この程度で彼女の機嫌が直るならば、本当に安いものだと思う。 「私に何しようとしたんですか?教えてくださいよ、ねぇ?アナタ、私に何しようとしたの?」 一語一説、区切るようにして紡がれる言の葉。 不穏な音色に、青ざめていくのが分かった。 これは、まずい。非常によろしくない。 抜けるような青空、長閑に吹きすぎる爽やかな風。こんな日に物忌みで外出できない、というのは…彼女にとっては八大地獄に落とされるほどに辛いこと、なのだと言う。 身体が腐り、零れる息は腐敗臭のようだとまで表現する心の鬱屈は、いかばかりのものだろうか。 それなのに、それなのに…なぜ、彼女を刺激するようなことをしてしまったのか!!! どれほど悔いたところで、放たれた言の葉を戻すことなどできはしない。 けれど、このまま麗しくない機嫌を下降させてしまったとしたら、それこそ友雅にとっての八大地獄となろう。 黙りこんでしまった男のことを、放っておいてくれるはずもない。 彼女は暇つぶしの贄を見つけたと言わんばかりに、不機嫌な瞳に嬉々とした光を宿して詰め寄ってくる。 「私に言えないことでもあるんですか?恋人、なんでしょう?」 「ど…どうしても、君に触れたくて…我慢が、出来なくて…。それで、脚に触れて、もし許してくれるなら、くちづけて…食べちゃ、駄目かな…と…」 口に出すだけで、腰の辺りをゾクリと這い上がる予感に苛まれる。 思わず、ふるっと身体を震わせたのに気付いた彼女は、可笑しそうに顎を引き上げ、見下した目でニヤリと嗤った。 「それで?押し倒してぐちゃぐちゃにして突っ込もうと思ったんですか?」 愛らしい面立ちに、卑猥な言葉。 ただそれだけで、喉が鳴る。沸き上がる妄想に、溢れ出た唾液を空気と一緒に嚥下した。 「ごめんなさい、許しておくれ。だが、どうしても我慢が出来なかったんだ」 「友雅さんの辞書に『忍耐』って言葉はないんですか?ねえ、それで?私の裸を想像して、もう起ててるの?」 裸足の爪先が友雅の下腹部に伸び、乱暴にかき回した。 「い…いや、その…」 逃げ腰ではあるものの、彼女の指摘通り、そこはすでに欲望が猛っていて。友雅は無意識のうちに腰を突き出し、凶器となった爪先へ差し出す。 「は、ぅ…っ」 「ナニコレ、何ですか、コレ?」 「あ、いや…ぅ、ふ…」 「踏まれてよがってるなんて、左近衛少将の名がすたると思いません?」 「…み、みこ、どのっ…」 硬い爪が切っ先を掠め、もたらされる快感と焦燥に唇を噛みしめた。 なんと言われようと、どんなことをされようと、彼女に触れもらっていると思うだけで高ぶる、身体と心を抑えることは出来ない。 それを知っていて、傍若無人に振る舞う彼女が愛しいとさえ思うのは、末期なのかもしれない。引き返すことの叶わない、深い神秘に踏み込んでしまった自分は、彼女無しに生きてはいけないモノになってしまった。その自覚だけはある。 「出さないで下さいよ?出したらどうなるか…わかってますよね、友雅さん?」 「わ、わかっている、よ。神子どのの足を、汚すようなこと、は…はぅっ…」 ぐり、と竿を踏まれて高い声が零れた。 女性と肌を合わせる過程の中で、これほど感じ、喘ぐほどの快楽を経験したことなどない。それなのに、色恋の経験自体がなかったこの少女との間では、常に追い詰められているのは自分の方なのだから、悔しいようでいて…嬉しかったりする。 「舐めて」 脇息に頬杖を突き、うっとりとした表情で友雅を見つめるあかねは、彼自身を嬲っていた爪先を器用にくるりと回して言った。 荒く息を吐き出す口元を、足の親指でなぞる。下唇を引っかけた指は、顎を辿って首筋を滑り、そして鎖骨のあたりをゆるりと行き来する。 友雅の顔の辺りを弄ぶために、彼女の短いスカートは太腿を剥き出しにし、そして薄い布に包まれた秘部をちらちらと見せつける。 「は、は、ぅ…」 「ひとりで気持ちよくならないで。ホラ、舐めて?綺麗に舐められたら、ご褒美を上げても良いですよ?」 「ほ、本当かい!?」 思わず上擦ってしまったのは、与えられる快楽に身体が痺れきっているからだろうか。 食いつかんばかりの勢いで訊ねれば、彼女は経験に似合わぬ嫣然とした微笑を浮かべた。 「あらやだ。私、大切な友雅さんに嘘なんかついたこと、ありましたっけ?」 ふるふる 想像するしかない『ご褒美』の内容が、過度の期待となって無言になってしまうほど、歓喜に打ち震えていた。 これまで、ことごとく約束が違われてしまったのは、嘘をついての事ではない。 彼女の気持ちが、気分が削がれてしまったからだ。それは自分のせいであるところが大きい、と、友雅が真剣に思っているのだから恋は盲目。あばたもえくぼ。 たとえば気に障ることを言ってしまったり、たとえば触れてはいけないと言われたところを触れてしまったり、たとえば、贈り物の品を気に入ってもらえなかったり。 ただそれだけであっても、清らかで繊細な彼女を傷つけるには十分なのだ。 これほどの本性も露わに、傍に置いてくれている。それは、彼女の本心が友雅の所にあるのだと主張しているに過ぎないのだから。 どれほど虐げられようとも。愛情の裏返しなのだ。 そう、友雅は確信していた。 精一杯奉仕をすれば、きっと今日こそ、『ご褒美』が貰えるはずだ。 しかもその奉仕の内容たるや、願ってもみないほどに悦ばしい行為なのだから。 断るはずなど、絶対に、京が破滅しようと、鬼が帝になろうと、決して、無い。 友雅は恭しく、けれど彼女の機嫌を損ねないようにと、全神経を集中して、白い白い爪先にくちづけを贈った。 ぴちゃり、 出来るだけ、彼女の官能を刺激できるよう。堪えることなど出来ないよう。むしろ率先して、その身体に触れることを許してくれるよう、必死に舐め上げていく。 決して愛撫ではない。勝手に愛撫を施そうなどとすれば、彼女はきっと、怒ってこの柔肌を引き戻してしまうだろうから。 彼女とふたりきりでいて、触れられないなど煉獄に叩き込まれるほどに辛いことだった。 いっそひと思いに殺して欲しいと願うくらい、自分にとっては耐えられない地獄だろう。 ぴちゃ、ぬちゃ、 湿った音が房内に木霊する。 興奮で荒くなった息を覚られないよう、持てる理性を総動員して細い呼吸を繰り返す。 「…ぅん、 は、ぁ…っ…」 ついに、桜色の唇から艶声が零れ出す。 頬杖を突いて、余裕の表情でいたはずの彼女も、ついに脇息に身体を預けて顔を伏せた。 サラサラと零れる春色の絹糸の隙間から、上気した艶かしい頬が誘いを掛ける。 友雅はそれを上目遣いで確認しながら、期待と緊張に胸が激しく鳴った。 「はい、ストップー」 パンパン、と柏手を打つような乾いた音が響き渡る。 先程までの匂い立つ色香を放つ声ではなく、至極冷静なそれ。 まさか、そんな…と悪い予感に囚われつつ、聞こえなかったふりが出来ない物かと僅かに思案。もちろん、その間も彼女の肌を味わう舌を止めることはない。 やがて、素足の踵が顔面にめり込んだ。 「ぅが…っ!!」 鼻の奥がツーンと熱い。熱くて痛くて、そしてもちろん、恐怖が現実の物となりつつある焦燥に、思わず涙が滲み出す。 「勝手に触った、お仕置きですよ。好きでしょ、放置プレイ」 怠惰に飽かせて生きていた頃には知ることの無かった言葉。けれど今は、正確に、そして実体験に基づいて詳細に把握できてしまっていて、その残酷な罰に息が詰まる。 張り詰めたモノを、どうにか解放させて欲しくて。 目の前をちらつく柔肌にかぶりつきたくて。 懇願するように上目遣いで見るが、彼女が今さらそんなことを気に止めるはずもない。 スラリと伸びた素足を惜しげもなく晒しながら、その場にゴロリと横になった。 「私、お昼寝しますから。友雅さんはそこからほんのちょっとも動いちゃ…メッ、ですよ?」 愛らしく唇をとがらせ。 唾液でてらりと光る足をブラブラと揺らしながら。 うふっと笑ってみせる。 「あ、あかね…そんなっ」 「もちろん、私に触れたら…絶交、ですからね?」 彼女は、確実に有言実行形だ。 どれほど愛し合っていようとも、自身が涙することになろうとも、必ずやり遂げるだろう。それだけは、何としても回避しなくてはならない。 触れてしまえば、絶交。 触れなければ、お預け。 どちらも地獄に違いない。 けれど、 「い…いや、だ。あかね、触れたい。君に触れたいんだ」 目頭が熱くなる。 物心ついてから、人前だろうと一人きりだろうと、涙など流したことの無かった男の眦に、ぷっくりと雫が盛り上がっていた。 「ダーメ、言ったでしょ、これは お 仕 置 き デスからね」 その様を、彼女は至極楽しそうに見つめながら、うふふ、と笑み声を零す。 官能に支配されつつあった先程よりも、余程艶めいて見えるのはなぜなのだろうか。 「あ、そうそう。虫が寄ってこないか、ちゃんと見てて下さいね?」 「あかね、あかね…」 「ひとりで気持ちよくなったりしても、駄目ですからね。もしひとりで抜こうとしたら、お仕置き追加です。何がいいかな……そうだ。私、頼久さんに抱かれちゃいますよ?いいですね?」 後頭部を殴打されたような衝撃。 「嫌だ!絶対に許せないよ、そんなこと言わないでおくれっ!!」 最悪、彼女の安らかで愛らしい寝顔を見ながら、自分で致してしまえばとりあえずの解決になる。そう思っていたのを見透かされたように、逃げ道を塞がれてしまった。そればかりか、決してそうすることができないように、脅しまで掛けられる。 他の男に抱かれることなど、盲目的にあかねを愛している友雅に、許せるはずなど無いと知りながら。 絶対的な確信犯。 けれど、彼女に抗うことなどできない。もしも、もしも約束を破ってしまえば、その言葉通り、頼久の腕の中へと飛び込んでしまうだろうから。 頼久に組み敷かれる彼女の姿が脳裏にちらついて、男に対する憤怒と、嫉妬。そして現実になってしまいそうな焦燥に、全身が大きく震えた。 許すまじ、頼久!神子殿が許しても、この私は許しはしない。地の果て、六道の果てまで追い詰めて、ギッタンギッタンのぐっちゃんぐっちゃんに切り刻んでやらねば気が済まない。 だが今は、彼女の機嫌を取り結ぶことの方が先決だ。 「嫌、だ。お願いだ、あかね。頼むから、私を哀れと思ってくれるなら、どうか。どうか…っ」 演技でも大げさでもなく、眦から雫がこぼれ落ちた。 はたり、板間に濃い染みを作る。 「もう、我が侭さんなんだから…。アレも駄目、コレも嫌、なんて我が侭ばっかり言ってると、他の人に抱かれてる私を見せますよ?」 「ひっ!わか…わかった!わかったから!!ここから絶対に動かない。もちろん、ひとりでしないし、君にも触れない。だから、だからそんな恐ろしいことを言うのは止めてくれ!」 「ふふ、いい子ですね。ちゃんと約束守れたら、甘〜い美味しいもの、あげますから…ね?」 鬼よりも鬼な、美しい愛する人は、嫣然と微笑んでいた。 生殺しに耐え続けること一刻半。 友雅がご褒美を貰えたのか…それは月だけが知っている。 |
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さくらのさざめき/麻桜 |