本気になった男と戸惑う少女

= 本気になった男と戸惑う少女 =





京の町の探索が終わっての帰り、すっかり暗くなってしまった道を

寄り添うように歩いている影法師が二つ・・・

龍神の神子あかねとその地の白虎の八葉橘友雅だった。

あかねにせがまれて神泉苑に寄り道をすると、あかねは嬉しそうに星空を見上げている。



「うわぁ〜お星様がたくさん・・・夜空にこんなにたくさんの星があるってこと知っていたけど、

実際に見ることが出来るなんて・・・あっ、流れ星・・・」



そう言ってあかねは、星空を指差した。


(この私が隣にいるというのに・・・)


友雅の存在も忘れているあかねに、寂しさを感じながらも、

そんなところも可愛いなどと密かに思っている自分に気が付いたとも雅は苦笑する。



「あ・・・また流れ星だ!!ねえ、友雅さん、見て!」



「ん・・・ああ、本当だね。」



嬉しそうなあかねを見るのは楽しいが、自分以外のものに興味が向いてしまっていることが

面白くない友雅は、生返事をしていた。



「・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・」



「・・・あかね・・・?」



「・・・・・・・・・」



少し前まではしゃいでいたあかねが、急に静になってしまったことに気が付いた友雅は、

あわててあかねの方を見ると、目を閉じて何か祈っている様子。

何か悩み事でもあるのかと心配になった友雅は、あかねの身体を引き寄せると、強く抱きしめた。

星空の下に佇み祈るあかねの姿が、一瞬、夜の闇に解けてしまいそうな気がして・・・友雅は不安になっていた。







初めてあかねに逢った時、あまりに純粋で無垢で、そして幼さの抜けないその容貌に、

はっきりいって友雅は、興味が湧かなかった。

それでも、退屈しのぎになると思い八葉となって行動を共にしていたが、

あかねの見た目と違う粘り強さと、時に覗く強かさに心惹かれていくのに時間は掛からなかった。

気が付けば、常にあかねの傍らに立ち、その華奢な身体を護り続けていた。

他の八葉たちも、あかねのことを虎視眈々と狙っていることが解っていたので、

友雅は気を抜くことが出来ないでいる。


(もし、今、あかねが自分の手の届かないところに行ってしまったら・・・)


そう思うと、胸が苦しくなるようなそれほど大切な存在・・・

傍らで微笑んでくれていないと生きていけないとさえ思うほどに本気になっていた。



「・・・友雅・・・さん・・・苦しいです。」



友雅の胸の中であかねが、無邪気な眼差しで友雅を見上げていることに気が付いたので、

友雅は少しだけ腕の力を緩める。



「いや・・・月の姫が、私の傍から離れないように、捕まえているだけだよ。」



友雅の言っていることが解らないあかねは、小首を傾げて見上げている。



「・・・・・・?」



「あかねは、熱心に何を祈っていたのかな?」



「えと・・・・・・それは内緒・・・です。

だって、願い事は言葉に変えたら、叶わなくなってしまうから・・・」



「私に内緒事か・・・それで、その願いは叶いそうかな?」



「小さかった頃、お母さんに聞いた話なんだけど、流れ星を見たらそれが消えないうちに

願い事を3回言うと叶うって・・・

流れ星ってなかなか見ることが出来ないし、見ても消えるまでに3回願えないから、

未だに願いは叶ったことがないの。

今も3回願えなかったし・・・でも、今は・・・・・・」



そこまで話すと、あかねは黙り込んでしまった。

いつもの友雅ならあかねが話したがらないことを、無理に聞き出すようなことはしないが、

今日は、少し違っている。



「・・・私では頼りにならないかな・・・?

年を重ね過ぎてしまったのかもしれないね。」



そう言うと友雅は、甘えるようにあかねの首筋に顔を埋めてしまった。

あかねは、友雅の身体に腕を回すと、自分からその大きな身体を抱きしめて耳元で囁く。



「いいえ・・・そんなことないです。

友雅さんのこと、とても頼りにしていますから・・・

でも、私はこんなに子供で・・・魅力もなくて・・・何も解らなくて・・・・・・

そんな私が、友雅さんのこと・・・大切に思っているなんて、迷惑じゃないのかな・・・なんて・・・・・・」



「・・・あか・・・ね・・・・・・」



次の瞬間、あかねはまた強く強く抱きしめられていた。



「そんな悲しいことを言わないでくれまいか。

君の唇に悲しい言の葉を紡がせてないから・・・何処にも行かないで・・・

ずっと私のもの・・・でいて欲しい。」



「えと・・・私で・・・い・・・・・・」



友雅の指があかねの唇に触れ、その形を確かめるようになぞっていたので、

それ以上言葉を続けることが出来ない。


そして、二人は口づけをかわす・・・・・・









「あかね、先ほど、熱心に願い事をしていたようだが・・・何を願ったのか教えてくれまいか。」



「それは・・・出来ません。

言葉にしてしまったら・・・願い事が叶わなくなってしまいます。」



友雅は、あかねの身体を少し開放すると、その頬に手を添えて、あかねの瞳をのぞき込む。



「あかね、星は見上げることは出来ても、その手にすることは出来ないもの。

だが、私なら常に傍らに在って、こうやって抱きしめることだって、

その可愛い唇の口づけを落とすことだって出来るのだよ。」



「えと・・・・・・」



「願い事があるのならは、星にではなく・・・この私に願ってはくれまいか・・・あかね」



「あの・・・私の願いは・・・・・・友雅さんと・・・ずっと一緒にいられますよう・・・・・・って・・・・・・」



あかねは消え入りそうな声で言葉を紡いでいたが、最後まで言うことは出来なかった。

友雅の激しい口づけが降ってきたから・・・・・・



その時、二人の頭上でまた流れ星が流れた。









end




Angel Tears / sanzou 様