水音

= 私を本気にさせたのだから、覚悟しなさい。 =










私はもう龍神の神子じゃない

ただの、『元宮あかね』

そしたら
―― あなたは・・?







水音







私は神泉苑に来ていた。

辺りはとても静かで水面は鏡のように澄み渡っていた。

ほんの数日前、最後の決戦があった場所とは思えない



「この世界に残ってくれまいか?神子殿」

そう言ってくれたことが嬉しくて、私はそのまま京に在る

こうして人のいない神泉苑にいるとあの時のことがまるで夢のように

感じられて、しばらく私は池に映る景色を眺めていた。







「まるでその美しい水の中に溶けてしまいそうだよ、神子殿」

その声に振り返った私へ友雅さんが微笑んだ。

「遠くからかわいらしい花を愛でるのも良いものだけれど、やはり一番

大切なものは手の届くところにいてほしいと願ってしまう」

私の隣りに友雅さんが立つと風で水面の影が重なった。

やわらかな風から守るように彼の手が私の髪にふれる。その仕草が

綺麗で思わず見とれてしまう

「君との逢瀬を待つ時間が私にとって、どれ程に長く辛いものなのか。

知らないのだろうね?姫君」

友雅さんと逢うのは西の札を一緒に返しに行ったとき以来になる

といっても、まだ2日も経っていないのだけど・・・







「さあ、これで私は八葉ではないよ」

あの時、岩倉の祠へ行った帰り路で友雅さんは私にそう言った。

京を守る龍神に撰ばれし神子と宝珠を身にまとう八葉

不思議な気持ちだった。目に見えない絆、それを私はいつの間にか

感じていたのだろうか?

「ひとりの姫となったのだから、これからは自由に羽ばたきなさい。

私は必ず飛び立つ君の傍にいるよ」

手を取り、そう言って友雅さんは私をみつめて笑顔になった。

あたたかくて、子供のように無邪気な顔で ――







神泉苑で雫が跳ねる水音が響いた

水面の上に小さな輪が広がっていく

全てを映す透明な水を通して伝わる





「あかね・・」

さらりと名前を呼ばれて、それがあまりに自然で私は返事をするの

を忘れてしまっていた。

生まれて初めて好きな人から聞く、自分の名前 ――

幸せすぎて、とっさに言葉が見つからなかった。



そんな私の背を友雅さんの袖衣が包んだ

すとん、と私の身体は友雅さんの胸の中に納まってしまった。まだ

ほうぜんとしている私の耳元で友雅さんがささやいた。

「私を本気にさせたのだから、覚悟しなさい」

いつもと変らない口調、けれど一瞬ドキンと胸が鳴ったのは友雅さんの

腕の力がいつもより強く感じたからかもしれない



ホントに目の前にいるのは、友雅さん・・?

でも間違いない。こんな風に私のことをからかう人も友雅さんだけ

あの澄んだ水音が心の中で再び響いていた

ゆっくりとした波紋となって私を満たしてゆく



それは、私のあなたへの想い

そして、あなたから私への想い





気が付くと ―― 私は真っ赤になっていた

「ふふっ、やはり君はかわいらしい姫だね」

やっと反応した私をみて、友雅さんは安心したようにそう笑った・・・






END







お題の友雅様萌えセリフがどれも素晴らしすぎて!!すごく迷ってしまいました。安心して子供のように嬉しそうな友雅さんが描きたくてこのお題を使用させていただきました。イラストのみの予定でしたが創作も作ってしまいました。参加させていただき本当にありがとうございました!!
☆姫の館 / たけのこのさと 様