悪戯にはキスで。キスには意地悪で

= 悪戯にはキスで。キスには意地悪で =






「うわ、寒い〜〜〜」



簀子縁に出て月を見上げた あかねは、夜の冷気に

思わず両腕で自分の身体を抱きしめる。



「そう言えば、今夜はハロウェン?だったよね。

・・・Trick or Trap・・・・・・?」



そう言ってから、あかねは寂しげに微笑むと、俯いていた。

しっかりと目を瞑り零れ落ちそうな涙を必死に堪えていると、

知らずに身体が小刻みに震え始める。



普通の高校生だったのに、ある日、突然、異世界に召喚されて、


『龍神の神子』だから京を救って・・・


そう言われて、必死に戦い、勝利することが出来た。

そして、共に戦ってきた八葉と呼ばれる『龍神の神子』を守る存在の一人に

あかねの運命の人を見つけて、戦いが終わった後も、自分の意志で残っている。



もう元の世界を思って涙を流すことはないと思っていたのに・・・

それなのに、折に触れて懐かしく思い出されることがあった。

でも、そのことはあかねだけの秘密・・・けして、人前ではそのことを

おくびにも出さないでいる。

だからと言って、この京に残ったことを後悔している訳ではなかった。

元の世界を懐かしく思うと、今、存在している京が、一層愛しく感じるから・・・



そんなことを思って、また顔を上げて月を見上げた瞬間、優しい温もりに包まれていた。

その温もりの正体は、振り返らなくてもあかねには、良く解る。



「・・・友雅・・・さん・・・・・・」



愛しい名前を口にしたあかねは、身体の力を抜いてその胸に寄りかかっていた。



「こんなに身体が冷えている。

月の姫・・・こんな夜は、一人で外に居てはいけない・・・

月の国からの迎えがきてしまうよ。」



友雅があまりに真剣に言うので、あかねは嬉しくて、またそんな友雅が愛しくて微笑む。



「大丈夫ですよ。私は何処にも行きませんから・・・

でも、甘いお菓子をくださらないと・・・Trick or Trap!・・・です。」



「ん・・・それは私への謎掛けかな?」



「謎掛け・・・?というより、おねだりかな?

私のいた世界では、今宵は“ハロウェン”というお祭りなんです。

丁度、今ごろは秋に収穫祭なので、悪霊たちを追い払うお祭りで、

その悪霊たちにお菓子をあげないと悪戯されちゃうんです。」



「悪霊とは・・・穏やかな話じゃないようにも思えるが・・・」



「ああ、そんな力のあるものじゃなくて、魑魅魍魎みたいなものなんですよ。

それに本当に悪霊が出てくるわけじゃなくて、子供達がカゴをもって近所の家を回るんです。

“お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ”って言いながらね。」



「ああ・・・それでお菓子のおねだりだったのだね。」



あかねなりの説明に納得したような友雅は、少し考え込むと、あかねの身体に廻した腕の力を強める。



「・・・友雅さん・・・お菓子をくれないと・・・悪戯しちゃいますよ。」



「ふふ・・・あかねは、どんな悪戯をして、私を困らせるつもりなのだろうね。」



「そうですね・・・」



友雅は、話している あかねの身体から片手だけ解くと、その手をあかねの顎に掛けて上向きにさせ、

少し後ろに向けると、その唇に優しい口づけを落とした。

触れるだけの口づけだったので、すぐに離れていく・・・ あかねは、そのことが寂しかった。



「・・・・・・・・・」



首まで朱色に染まり、恥ずかしさに顔を背けようとしたあかねだったが、友雅がそれを許さない。

あかねの耳元で優しく囁いていた。



「甘い口づけでは、お気に召さなかったかな?」



「・・・え・・・・・・」



「悪戯する姫には、甘いお仕置きだよ。」



そう言ってもう一度、あかねに口づけをしようとしたが・・・

一瞬、早くあかねが、友雅の腕の中から逃げ出していた。



「あかね・・・?」



あかねは友雅から少し離れた所に立つと



「もう・・・私は、甘いお菓子が欲しいんです。」



と友雅を睨んでいる。

その様があまりに愛らしくて友雅は、微笑みそうになるのを必死に堪えて、

さも悲しそうにあかねを見つめた。



「あかねは、わたしの口づけより、お菓子の方が好きなのかい。悲しいね。

もう、私のことなど・・・好きではないのだね。」



「あの・・・いえ・・・そんな訳じゃ・・・」



「だったら、ここに来て私を慰めてはくれまいか・・・」



そう言われてしまうと、弱いあかねは、友雅の近くに戻って行くと、

矢庭に腕が伸びてきて、、気がつくと友雅の腕の中にいた。



「今宵、魑魅魍魎どもが跋扈して、悪さを働くと言うのなら、私は、大切なものを守ろう。

あかね・・・君という宝物をね。」



友雅の言葉をその胸の中で聞きながら、あかねはちょっと悔しかったが、

それでも、愛しい人と一緒に居られる幸せに包まれている。

そして、二人は口づけをした。





ハロウィンの夜は、愛しい人と共に・・・


悪戯にはキスで、キスには意地悪で






end



友雅さんに悪戯しようと思ったのに、反対に友雅さんの思い通りにされてしまって、
ちょっと悔しいけど、それでも幸せなあかねちゃんを書いてみました。
2006.10.22 sanzou
Angel Tears/sanzou 様