初霜

= 吐息、淡く。震えるのは私 =






 今年最初の霜が降りた。

「友雅さ〜ん、起きて♪ 遅刻しちゃうよ!」
 あかねの声に、友雅は眠たい目を開けた。
 キッチンから、おいしそうな朝食のにおい。
(朝食よりもあかねって言ったら、怒るだろうねえ……)
 不埒なことを考えながら、友雅はゆっくりと体を起こした。
 寒い。
 京の寒さに比べれば、「ひーとあいらんど現象」なのか「温暖化」なのか分からないが比べてはいけないほどあたたかいが、昨日までの空気に比べて、明らかに冷たかった。
 友雅は、窓の外に目をやった。
(霜が……。寒いはずだ。)
 昨夜ベッド脇のソファに脱ぎ捨てたバスローブを上着がわりに引っかけて、友雅はダイニングへ向かった。

 湯気の立つクロワッサンといれたてのコーヒー。絞り立てのオレンジジュースをまずのどに流し込んで、友雅の目はようやくはっきり覚めてきた。
「友雅さん、外、霜が降りてるの。寒くなったよね……。」
 お弁当を包みながら、あかねが言った。
「今夜、早く帰れる? あったかいもの、作るから……。」
「がんばってみよう。私としては、あたたかいものより、君を食べたいのだがねえ……」
「もう、友雅さんったら、朝から!」
 あかねの手のひらが飛んでくる。軽くかわして手首をつかみ、抱き寄せてキスした。そのまま抱き上げてベッドへ……。
 あかねが小さくつぶやいた。
「遅刻、しちゃうわよ……」

 霜の降りた道を、友雅は出かけた。
 キッチンの窓から、けだるげに見送るあかねがいた。
 友雅の吐く息が白く、淡く、だんだん遠ざかる。
(寒!)
 友雅のぬくもりも遠ざかる気がして、あかねは急に寒さを覚えた。

 そして。

「きゃああああああああ!」

 あかねは、暖房器具を何一つ用意していなかったことを思い出した……。








この後あかねがどうしたかは、ご想像におまかせ。
早く買いに行かないと、友雅においしくいただかれちゃうよ〜!
遙かなる悠久の古典の中で/美歩鈴 様