はろうぃんの夜のこと

= ハロウィン =






 それは、神無月つごもりの夜。

「あかねちゃん! 今日、ハロウィンだよね!」
 詩紋くんが飛び込んできた。
「ぼく、お菓子をたくさん作ったんだ。ねえ、みんなで、ハロウィンしようよ!」
「みんなって……こっちのみんなは、ハロウィン知らないよ?」
「いいんだって、お菓子をあげることにすれば! 行こ!」
ということで、詩紋くんのお菓子を手に、みんなのところを巡ることに。

 最初に行ったのは、藤姫ちゃんのところ。
「藤姫ちゃん! トリック オア トリート! 今夜はハロウィンだよ!」
「はろうぃん、と申しますと?」
「今夜は、物の怪のお祭りなんだよ。だから、おそわれないように、お菓子を配って歩くんだよ。ほんとは、もらって歩くんだけどね。」
「物の怪のお祭り、でございますか……? 神子様は、みなさんにお菓子を配ることで、五行の力を分けて差し上げるのですか?」
「うん、そんなようなもの!」
 だいぶ違うけど、まあいいか。楽しいから!

 次に行ったのは、天真くんのところ。
「Trick or treat! 天真先輩、ハロウィンだよ!」
「う……おれ、菓子なんか、もってねえぞ!」
「いいよ、ぼくのお菓子あげるから。」
 一緒においしく食べて、次は、頼久さん。
「神子殿、夜になってからの外出は危険です!」
 怒られちゃった。大丈夫だよ、詩紋くんいるから!
「では、私を供にお連れください。」
 大丈夫だって! 次、行ってみよう!
 鷹通さん。永泉様。イノリくん。みんな、面白がってくれた。泰明さんたら、
「神子、あれたちは祭などせぬ。」
 現実的だなあ……。日本のお化けはそうかも。お盆だよね。
「ぼん、とは何か。」
 平安時代に、お盆はなかったっけ?

 最後は、友雅さんのところ。
「はろうぃん、かい? おもしろい遊びがあるものだね。夜に、訪問するのかい?」
 ふふっと意味深な笑い。
「私としては、神子殿一人に訪問してもらいたかったものだが……。」
 じっと詩紋君を見てる。詩紋くんったら、あわてて、
「ぼ、ぼ、ぼく、一人で、帰ります! 友雅さん、あかねちゃんを、ちゃんと送ってきてくださいね。」
 とっとと帰っちゃった。このはくじょーもん!!
「待って、詩紋君、私も、帰るから!」
「お待ち、神子殿。夜の一人歩きはアブナイよ。それに、今日は、『はろうぃん』なのだろう? 鬼一族がねらっているかもしれないからねえ。馬で、送ろう。」
 友雅さんの方が、アブナイと思います!
「さあ、お乗り、神子殿。」
 乗せられてしまった。
「とばすから、冷えるといけないね。私の上の衣の中に入って。」
 上着にすっぽりとくるまれてしまった。
 怖かったから、友雅さんの胸にしっかりしがみついて。馬の蹄の音と、友雅さんの鼓動の音だけが聞こえる。どのあたりまできたのかな。土御門って、友雅さんのお屋敷からこんなに離れていたっけ?
「ついたよ、神子殿。」
 どこに……? ここ、土御門じゃないよ……。
「こんな機会を、待っていたのだよ。ご覧、星空を。美しいね……。」
 夜空を見上げると、確かに、満天の星空。空って、こんなに星で明るいものだったんだ……。
「ああ、まだ、見えるね。織女と牽牛の星を、神子殿は知っているかい?」
 織り姫様と彦星様のことですね。
「そうだよ。神子殿の世界でも、七夕はあるようだね。神無月も晦日になるけれど、西の空にまだ光っている。あれを見ると、思うのだよ。あの二人は、七夕の夜でなくても、カササギの橋を渡ってしまったりはしないのだろうかと。」
 そういえば、そうですね……。あんなに低くなっても、白鳥はちゃんと真ん中で羽根を広げているのに。
「神子殿……。私たちも、カササギの橋を渡ることはできないものかな。『はろうぃん』の魔法で。」
 返事の代わりに、友雅さんをぎゅっと抱きしめた。
 流れ星の代わりに、友雅さんの顔が、顔の上に降りてきた……。



 
いつもは古典ベースで書いていますが、今回、そこから離れて書いてみたのはとても新鮮でした。
とても楽しかったです。
遙かなる悠久の古典の中で/美歩鈴 様