I surrender you! |
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= すすき野原でつかまえて = |
御所の穢れを祓うために梨壺に局を貰ってからもう何ヶ月になるのだろう。 「少しずつではありますが、内裏の怪異は減っています。 といって慰めてくれるけれど、あかねは一向に気が晴れなかった。 とはいうものの、放って置けば穢れは重くなり続け、怪異も頻発するだろうと思うとじっとしているわけにもいかず、今日も朝から鏡を覗いては怪異の現われる場所に赴いて怨霊退治に励んでいたのだ。 今朝一番に局を訪れた友雅が 「神子殿、今日は私にお供をさせてくれるね?」 と言った時には、本当に驚いた。まさか、友雅が一番に現われるとは思ってもみなかったから・・・。 自分は一体どうしてしまったのだろう? ―――最近友雅さんのことが気になって仕方がない。 一緒にいる時はいつでも、彼の言葉を一言も聞き漏らすまい、彼の動作を一つも見逃すまいと神経を欹ててしまう。 そんな訳で今朝も、なんだか友雅と二人だけで出かけるのは気詰まりだなと思っていたところへ、ちょうどいい具合にイノリが来てくれたので三人で出かけることにしたのだった。
その日は文殿辺りに潜む怨霊を何体か封印し、そろそろ梨壺へ戻ろうかという時に三人の前に新たな怨霊が現われた。 「友雅さん、星晶針を使いましょう!」 「よし、それでいこうか。イノリ、追撃を頼むよ。」 「任せておけって!」 「きらめきよつらぬけ、星晶針!」 友雅の放った術に続いて次々に追撃が加えられ、友雅が最後に決め技を繰り出そうとあかねをその腕の中に抱き寄せた。 「怖がることはないよ。・・・」 と、次の瞬間「いやぁー!・・・」と言う声を放ってあかねは友雅の身体を突き飛ばしてしまった。 「きゃー、友雅さん!」 「くっっう・・・、大丈夫だよ、神子殿・・・。」 「あかね、何やってんだ、早く次の術を!」 「でも、友雅さんが・・・。」 友雅の側に駆け寄ろうとするあかねの腕を掴んで前を向かせると、イノリは叱り飛ばすように怒鳴った。 「ばか、今は怨霊を倒すことに集中しろ!」 「う、うん、わかった。イノリ君お願い!」 辛くも鵺を退け封印できたものの、友雅は酷い傷を負ったようだった。 「ご、ごめんなさい・・・。私のせいだ・・・。」 青ざめた表情で消え入りそうな声を洩らすあかねに 「大丈夫だよ、君が気にする必要はない・・・。」 そう言いながらも友雅の表情には先ほどまでにはなかった硬いものが浮かんでおり、あかねはいたたまれず、御所を飛び出してしまった。
一人でふらふらと宛てもなく京の街を彷徨い続け、気がつくと双ヶ丘のふもとの辺りまで来てしまっていた。 ―――どうしてあんなことをしてしまったのだろう? ―――何が?・・・ ―――では、なぜ・・・? 自分に触れる友雅の手が本当はずっと恋しくてならなかったのだ。 ―――こんな気持ちのままじゃ、みんなの所には戻れない・・・。 傾きかけてた秋の日が丘の稜線を照らし、麓に広がるすすき野原を琥珀色の漣のように見せている。 と、その時、不意にあかねの後ろの方で、がさがさっという音がして薄の穂が大きく揺れた。 ―――な、なに・・・?やだ、なんかいるのかな?まさか怨霊? そう思って身を硬くしたあかねの前に薄の中から姿を現したのは、なんと友雅だった。 「と、友雅さん・・・、ど、どうして、こんな所に・・・?」 驚いて思わず間の抜けた言葉をはいてしまったあかねに 「どうしてこんな所にいるかだって? まったく君という人は・・・」 そういいながら近づいてくる友雅の顔にはやはりあの硬い表情が張り付いたままだった。 「私をこれ程心配させておきながら、どうしてと訊ねるのかね?」 「・・・ごめんなさい。でも、あの・・・さっきのことは、あの・・・」 言葉に詰まりながら後ずさるあかねに正面から視線を注いで友雅は訊ねた。 「私が怖いかい?」 「えっ?・・・あの・・・」 そんなんじゃない、でもどういったらいいのだろう。あかねは口ごもってしまう。 「私に触れられるのが嫌だった?」 「違います!・・・そうじゃないんです。・・・」 「だったら、どうしてあんなことをしたのかね?」 慌てて首を振るあかねの側に更に近づきながら友雅は訊いてくる。 「・・・あの・・・、私、どうしていいのか・・・わからなくって・・・」 「何を?」 友雅は容赦なく畳み掛けてくる。 「自分の、・・・自分の気持ちが怖くて・・・」 「どんな気持ち?」 友雅はじりじり近づいて来て、もうあかねのすぐ目の前に立っている。 「そ、それは・・・言えません。」 あかねは息苦しさから逃れるように一歩退きながらもきっぱりと言い放った。 「じゃあ、質問の仕方を変えようか・・・。私とこうして二人でいることは嫌じゃないんだね?」 友雅も一息ついたように顔を上げて視線を外してから、再びあかねの顔を覗きこんだ。 「はい。」あかねはこくりと頷く。 「じゃあこうして、君に触れることは?嫌じゃないかい?」 そう言って友雅はあかねの肩にそっと手を置いた。 「・・!・・・はい。」 あかねは一瞬目を上げて友雅を見たが、すぐに俯いて今度は小さく頷いた。 あかねの肩に置いた友雅の手に力が加わり、更にもう一方の手が背中に廻されたのがわかると、あかねはもうくらくらして一人で立っていることも出来そうにない。 友雅が背中の手をぐっと引き寄せたのに身を任せ、その胸の中へすっぽりと抱きとめられてしまった。 「神子殿、今度こそ君の気持ちを聞かせてくれるね?どんな気持ちだったのかを・・・。」 友雅の甘い囁きが熱い吐息と共に耳朶をくすぐる。 だって私はあなたにすっかり捕まえられてしまったのだもの・・・。
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遥葉譚/璃々子 様 |