秋は好き?

= 秋 =





このところ、友雅の仕事は立て込んでいたが、今日はめずらしく職務が早く 終わったため、夕暮れ前に大内裏を出た。

屋敷に着く頃は、ちょうど夕日が綺麗に見えて、さすがに『秋は夕暮れ』という だけのことはあると思いながら、自邸の門をくぐった。


今年の秋は初めてあかねと過ごす秋。


もちろん、春も夏もそうだったが、あかねといると何もかもが新しく色鮮やかに 見えてくる。

日々の暮らしが楽しい。そんな風に過ごせるなど、少し前には考えられなかったことだ。

あかねを想い、またあかねに想われる。そのことがとても幸せなのだ。

今日も屋敷へ着くや否やあかねの待つ部屋に足を向ける。
そして、夕餉を共にし、その後は二人で月を見ていた。


「友雅さん」
「ん?」

「友雅さん、秋って好きですか?」
「どうしたんだい?いきなり突然」

少し俯くあかね。

「私、この間までは秋って好きだったんですけど、嫌いになりそう・・・」
「どうして?」


あかねの声音は沈み加減だ。

「だって、こっちの世界じゃ、秋って“飽き”にもなぞらえるんでしょ?」


ああ、それでか・・・と友雅はクスリと笑った。
あかねは今、歌(和歌)の勉強もしている。そのときに教わった知識なのだろうと 思った。


「・・・それに・・・」

憂いた表情だ。

「・・・大恋愛はいつか冷めるときが来るって・・・・・・」

あかねは悲しそうにポツリと言った。
年配の女房にでも言われたのだろう。


自分と友雅もそうなってしまうのかと思うと、いたたまれない気持ちになった。

「・・・それは世の人で、大恋愛した人たちが続いたためしがない、ということかな?」

あかねはこっくりと頷く。

しかし、友雅はそんなことを少しも気にしてはいなかった。

「では、私たちが先例になればいい」

「え?」

あかねはきょとんとした。

「大恋愛の想いが冷めない、という最初の例になればいいと言ったんだよ」


「・・・・・・友雅さん・・・」

あかねにとって思ってもみなかった考えだった。
それは友雅が『この先もあかねを愛することをやめるつもりはない』と強く主張している ようで・・・・・・。


「友雅さん・・・、私も・・・私もずっと好きですから・・・」

「ありがとう、嬉しいよ」

二人は互いに視線を合わせると、小さく微笑んで寄り添った。

秋も二人の絆も深まった夜の出来事であった。




和歌の掛詞の「秋(飽き)」をテーマにしました。 冷めない大恋愛って友あかに似合うかなーと。
月待講/湖乃ほとり 様