紅葉の庭

= 紅葉色の貴方。永久に… =






その言葉は、擦り切れてしまったと思っていたのに。

自分の世界を捨てて、私のもとにとどまることを決意してくれた少女。

紅葉する庭の木々に見とれる少女を後ろから自分の腕の中にさらい

上からのぞき込むようにして、少女に告げる。



「愛してるよ。茜。」



少女の頬が赤く染まる。

庭の紅葉に負けないくらい、それは美しい赤。

まるで、秋色をすべて抱きしめている錯覚に落ちる。

至極満足げな男に対して、少女は頬を赤らめつつも不満げだ。


友雅が余裕の表情で自分に愛を囁いてくれることも、

何度も何度も言われているのに、いつまで経っても慣れなくて動揺している自分にも。

そんな茜を「いつまでたっても、ねんねさんだね。」と友雅は笑うのだ。



「子供扱いされるのは不満だけれど、そう言うことになれて鈍感になってしまうのも

寂しくて悲しいじゃないですか?」



と苦し紛れの反抗に友雅はわざとらしく驚いたような表情をつくって、



「それはそうだね。君のおっしゃるとおりだ。」



などと茶化して、ますます茜自身の幼さを目立たせる。


面白くなくて、茜は反撃の手をあれこれ考える。



「友雅さんは、ずいぶんと簡単に『愛している』って言葉を口に出来ちゃうんですね。

そんなに簡単に口に出来るなんて、なんだか信じられないな〜。かえって・・・」


「嘘っぽい?」



友雅は、まるで演技をしているように綺麗に肩をすくめてみせる。

茜は、至極真面目そうな顔をして同意を表した。



「うん。嘘っぽい。」

「それは・・・傷つくな・・・。」



男は、拗ねた表情を浮かべてみせた。

友雅が自分をちゃんと愛してくれていることが解っているからこそ言える暴言だと

言った本人である茜も解っている。

でも・・・少し言い過ぎたと茜は思ったが、これしきの暴言を真面目に

捕らえる男でもないことも茜は知っている。



「はい、ちゃんと傷ついてください。」

「え?」



ちゃんと傷ついてくださいとはどういうことだろう?

底知れない笑みを常にたたえ、素直な感情をなかなか表に出さない男が

素直に「なにを言っているのか?この子は」と顔に出しているのを確認して

ようやく茜は満足する。



「だって友雅さんには悪いけれど、私の言葉がちゃんと友雅さんの奥の奥に

届いているって確信できるんだもん」


「これはこれは、ずいぶんと悪い子だね。」


「そうかな・・・」



少女のポツリと呟いた言葉に意地の悪い笑みで答えようとしたとき

彼女はこう続けた。



「・・・・・気が付くことと、傷つくことは同じような気がするんです。」



友雅が、心持ち驚いたように目を見開いたとき、

庭の紅葉が、ザワザワと野分(のわき)を思わせるような強い風に揺れた。


何度も使った言葉。

きっと、今まで生きてきて何百と使ったか解らない「愛している」の言葉。

確かに好意を伝える術だったはずなのに、いつしかそれはコトを上手く運ぶための

手段になっていったことは否めない。



愛しているよ。君が好きだよ。きみをあいしている。



言えば言うほどその言葉が持つ意味がすり切れていくのを感じた。

別に悲しいとは思わなかった。

それが年を取ることだと感じていた。

確かに年を重ねるほど、その言葉は声にするのが楽になっていったから。


そう感じていたのに、口にすることを止めなかった。

何人もの女に同じ言葉を口にした。

同じような甘さで、同じような毒を込めて。

でも、何一つ理解していなかったように思う。


そして気がついたのだ。

茜に出会って切ないほどの思いと自分を突き動かす情熱と愛情を。

意味も分からず使っていた言葉は擦り切れていたようで

決して擦り切れていたわけではなかった。

友雅は静かに目を閉じて、腕から伝わる茜の感触に集中する。



「茜は、愛しているって言葉を私以外の男に言ったことがある?」

「・・・知ってるクセに・・・」



この男はずるい。

解っていて言っているのだ。


茜にとって本当に恋したのはこの男が初めてだった。

憧れとも好意ともちがう、もっと強く願う恋。

好きだと他人に告げたのも初めてだった。

キスしたのも初めてだった。

何もかもこの男が初めてだったのだ。



「ちょっとね、確認さ。」



片目をつぶって友雅は笑う。



「なんだかな・・・もう・・・」



バフッッと大げさに友雅の腕に顔を埋める。

埋めた男の胸から心持ち早い鼓動が聞こえる。

自分と同じように、ドキドキしていることを確認して頬が緩む。



「今、笑ったね?」



少しばつが悪いような男の声が微笑ましい。

何度も口にして使い慣れて、でも真実とそうでないものとの違いに気がついて

思いの純度と不純を織り交ぜ・・・その上で口にする『愛してる』と

ただ一つしか知らなくて、一番最初の一番真っ新な純度の高い『愛してる』と

どちらがいいかなんて解らないけど、それでも茜は思わずにはいられない



「やっぱり友雅さんはずるいと思います。」



男は少女を抱きしめたまま、喉の奥で低く笑った。



「そうだねぇ・・・私の「愛している」を色に例えるならば、

この庭の紅葉の色ってところかな」



幾千幾万種類の色が織りなす赤の色

けれど君の頬の赤に勝る赤はない。

今、私はこの世で一番美しい秋の色を抱きしめている。








                              








もう長く(笑)遥かサイトをやっておりますが、こういった参加型の企画に初めて参加しました。 かなり緊張しております。 本当に短い駄文ですが、「友あか」という言葉に今だトキメキを感じる 私としては、こういった企画があると知り「参加したい!」の欲望のまま勢いでやってしまいました・・・。参加させてくださってありがとうございました!! やっぱり友雅大好きだ!!万歳!(泣笑)
青の王様/ちか 様