月の宴

=友雅なのに号泣!?=



11

子供のように泣き続ける友雅を
優しくなだめる天真。
それを傍で、膝を抱えながら見守るイノリ。


「大丈夫。アクラムも言ってただろ?助かるのはあかね達次第だって。
 あかねなら・・・あいつらなら大丈夫だよ。」



「その言葉信じていいのかよ・・・。鬼の言葉だぜ・・・?」


いつになく覇気のないイノリの言葉に、天真は笑顔で答える。


「例え1%の・・・ほんの僅かなの可能性でもあるなら
 それに賭けてみない手はないだろ?」


「そりゃあ・・・そうだけどよぅ・・・。」


クシャクシャとイノリは髪の毛を掻きむしる。
天真の言うことも勿論判らない事ではない。
でも鬼の言葉を簡単に信じることも出来ない。
それでも、それが本当だと信じたい。
・・・そんな複雑なその気持ち。



「なぁ友雅。」



天真は膝を落として、友雅に視線の高さを合わせた。


「お前は・・・俺が信用できるのに、まさかお前があかねを
信用できないなんて訳がないよな?」




その言葉に友雅はピクリと反応する。

「・・・・それは愚問だね。」


ゆっくりと、友雅は、天真に視線を重ねた。


「私が姫君を信じないという事などあるわけがない。そうだろう?」



ようやく見せた、いつもの友雅の余裕の笑み。
天真は、笑顔でそれに頷いた。

もう少し。
あと少し。

手を伸ばせば届く、その灯り。


あかねの指先が、灯りに触れる。
その瞬間。辺りの景色が真っ白に広った。



そこには見慣れた・・・
あかねの大切な仲間たちがいた。



「みんな・・・」


あかねは、友に何十年ぶりにであったかのような錯覚を覚えた。
彼らが自分を振り返る。


---神子殿

---神子様

---神子

---あかねちゃん。




自分を呼ぶその声を
胸に心地よく噛みしめる。



泰明は空(くう)を仰ぎ、呟いた。


「気が乱れた。もう少しだ。」


泰明の言葉に詩紋が嬉しそうに反応する。


「本当ですか?泰明さん。」

その質問に答えたのは、泰明でなくあかねだった。

「絶対大丈夫だよ。友雅さんもきっと助けてくれる・・・。」



あかねは掌の中の匂い袋をギュッと握り締め笑顔を作った。

ゴロゴロと毛繕いをする猫を囲う形で3人の男が鎮座する。
はたからみればおかしなそれも
彼らにとっては真剣以外の何者でもない。


あれから何刻過ぎただろうか。
イノリが一つ、提案を持ちかける。



「なぁ、おっさん。天真。」
「私は”おっさん”ではないよ?イノリ殿。」
「いや、おっさんだろ。間違いなく。」
「ああ、おっさんだ・・・ってそうじゃなくてさ。」
「だからなんだよイノリ。」


違うところに話の錘をおいて逸らした自分らを棚にあげ
なかなか切り出さないイノリに友雅と天真は焦れた。



「こっちからあかね達に俺たちで例え少しでも気を送ってやったら・・・
 どうかなぁ・・・って思って。」



友雅と天真は、思わず一瞬、顔を見合わせた。
もしかしたら的外れな事を言ってるのかも知れないと
イノリはそんな二人をおずおずと見る。
そんなイノリに友雅は微笑んだ。


「”子供”にしてはいい考えだよイノリ殿。」
「ガキ扱いすんじゃねぇよおっさん!」
「私は”おっさん”ではない。イノリ殿より少し大人なだけだよ。」
「まぁまぁ・・・。とりあえず善は急げっていうし試してみようぜ。」


三人は同時に頷くと、各々の印を胸に組み
猫にそれぞれの思いを込めて気を送り始めた。

急に”そこ”の気が高まった。
それは、あかねのよく知っている気だった。


---天真くん、イノリくん、・・・・・・友雅さん・・・・・・

あかねは、それに優しく支えられているような錯覚を覚えた。

「神子。乱すな、もう少しだ。」

泰明がじろりと睨む。

「はい!」

あかねは元気よく頷いた。


永泉の笛の音に乗せられた皆の思い。
それが、ついに結界を破った・・・。

急にあたりが眩(まばゆ)い光に包まれた。
思わず友雅は目を細める。
あかねを助けるつもりが逆に取り込まれたのかと思った。

しかし、すぐにまた、辺りは元の景色に戻った。
友雅は・・・。
そしてイノリと天真はあたりを見回した。


「あ・・・。」


天真が空を見上げ指差した。
友雅とイノリがそれの差すほうを見上げる。

空から、あかねが・・・
そして残りの八葉、藤姫がふわふわと下りてきた・・・。



---月から姫君が舞い降りた。



友雅はその時、そう思った。
両腕を広げて、その姫君・・・あかねを迎えた。



「お帰り。私の愛しい人。」

いつもなら照れてしまうその呼び方を
あかねは笑顔で受け入れる。


「ただいま。友雅さん。」

互いの存在を確かめるように、どちらからともなく口付ける。
触れては離れ、離れては触れ。

何度かそれを繰り返した後に
あかねは友雅の瞳が赤く腫れていた事に気がついた。

「友雅さん泣いていたんですか?」
「これは・・・」

優しく友雅の瞼を人差し指でなぞらせる。
友雅は照れくさそうにはにかんで見せる。

「狡いですね。私には泣くなって言ったくせに。」
「ああ・・・。もう君に泣くなと言えなくなってしまったね。」
「ごめんなさい一人にしてしまって・・・。」
「いいや。知っていたかい?
 こうして君が私の元に戻ってきてくれた。
 ・・・それだけで私は救われるのだということを。」


そして二人はまた、深い口付けを落とした・・・。








<余談>

「あの・・・私たちも助かったんですけど・・・ねぇ・・・・?」


鷹通がすまなそうに二人に呼びかけるが、二人の元にその声は届かない。

「まぁ放っとけよ。友雅の奴あかねの事すっげー心配してたんだし。」
「はぁ・・・。」
「そうそ。凄かったんだぜ。あのおっさんがボロ泣きしちまったんだからよ。」
「イノリ、それは黙っとけって。」
「いいじゃん、言っちまったんだし・・・。」
「はて・・・、それはどういう事ですか?」
「それがね・・・。」




それから暫く、友雅はそれをネタに八葉達にからかわれるようになりましたとさ。




END

後書


月晶綺憚 / 佐々木紫苑 様