本当の想いは

=友雅なのに弱い!?=




橘少将は、夜毎にたくさんの見目麗しい女房の許に通っているらしい・・・

近頃、異世界より来た少女の許にも、密かに通い自分好みに育てているらしい・・・



そんな噂が宮中の中で、密やかに囁かれている。

橘少将が参内すると、御簾の翳から袖を引いてくるものもいたし、

真実を知りたくて、宿直の時にわざわざ聞いてくるものあったが、その度に

橘少将は、涼しい笑顔を見せるだけだった。

そして、今宵も恋人の許へ・・・





ある月の美しい晩、左大臣家の女房たちがそんな宮中での噂話を、

楽しそうに話しているのを、あかねは立ち聞きしてしまう。

そして、その噂話に、どうやら自分のこと言われているらしいと解ると、

複雑な顔をして、その場を離れ、自分の部屋に向かった。



あかねは、渡殿を渡り自室の前の簀子の高欄に腰掛けると、振り返って月を見上げると、



「どこでも、女の人が集まると噂話に花が咲くのよね〜。

橘少将って、確か・・・友雅さん・・・のことだよね?やっぱりプレイボーイだったんだ。

うん、見るからにそうだよね。でも、変なの私みたいな子供は、相手になんかしてないのに・・・

誰が自分好みに育ててるですって!!もう、無責任なんだから・・・」



誰に言うでもなく独ごちる。



「はぁ〜〜そうだった・・・噂話って、無責任なものだったっけ・・・私の気持ちなんか・・・

ちっとも解ってくれなくて・・・友雅さんは酷い人。

私のこと子供扱いしているって本当のこと言えばいいのに・・・期待しちゃうよ。」



そして、一つため息を吐く。

すると、突然、あかねの肩に腕が伸びてきて、有無を言わさずに振り向かされた。



「・・・友雅・・・さ・・・ん・・・・・・」



「月の光の衣をまとってはいけない・・・迎が来てしまう・・・」



「・・・あ・・・・・・」



目の前には、今までに見たこともないほど切ない眼差しをした友雅が立っていたので、

吃驚したあかねは、ただ友雅を見つめるのみ。

友雅は、無言でその手を伸ばすと、指先であかねの唇をなぞるようにして、

その感触を楽しんでいるようだった。

あかねは、その指の感触が心地良くて、為すがままなっていたが、ハッと気がつくと、

少し横に身体を移動させて、その指先から逃れる。



「そ、その・・・今宵は、見目麗しい想い人のところに行かなくて・・・いいのですか?」



さっき聞いた女房の噂話を想いだして、少し刺々しい口調で聞いた。



「おや・・・焼もちを妬いてくれたのだね。嬉しいよ。」



余裕のある言葉なのに、何故かその表情は苦しげで辛そうだった。

あかねは、友雅が元気がないことが気になっていたが、いつも子供扱いされていたので、

今回もからかわれているのだろうと思い



「いいえ、違いますよ。焼もちなら、見目麗しい方たちに妬いてもらったらいいじゃないですか。」



冷たい口調で言い放つ。

友雅と目線を合わせるのが怖くて横を向いていると、腕を強い力で引っ張られて、

そのまま友雅の胸に落ちていった。



「姫君・・・機嫌を直して、私の好きな花の微笑を見せてはくれまいか?」



「そんな・・・また、私のこと子供だと思って、バカにして・・・・・・」



胸の中のあかねが、いつまでも拗ねつづけるので、友雅はその背を優しく撫でる。

でも、拗ねる姿も愛らしいので、友雅の顔にやっと微笑みが戻ってきた。





あかねは、龍神の神子として京に召喚されて、鬼の一族と戦いに巻き込まれてしまう。

最初は、訳が解らずに戸惑ってばかりいたが、苦しむ人々のためと、自分が元の世界に帰るため、

必死に頑張って戦っていた。

その戦いの中であかねは、神子を護る八葉の一人、地の白虎、橘友雅に心惹かれ初めている。

でも、その友雅から子供扱いされていつのに、噂では『友雅好みに育てている』と言われ、

その矛盾に悩み、怒っていた。



友雅は、拗ねつづけるあかねをぎゅっと抱きしめると、その髪に顔を埋めるように囁く。



「私は、一人の女性に本気になることが・・・怖かった。

だから、いつもたくさんの姫君や女房たちに囲まれて、楽しんでいた・・・

いや、楽しむ振りをしていただけなのかもしれない。

会話だけなら、どんな相手とでも恋の真似事は出来る。

適当に楽しんで後腐れなく別れることが出来れば、それで良いと思っていたのだよ。

それが、自分の気持ちに素直に行動する君を見ているうちに・・・

本気になるのも悪くない・・・そう思えてきてね。

でも、いざ君と二人きりになると、その・・・気が弱くなってしまって・・・可笑しいだろう?

笑ってくれても構わないが、私の気持ちは、本当だと信じてくれまいか。」



友雅の声を、あかねはその胸の中で聞きながら、そこから抜け出そうと、

暫らく抵抗を続けていたが、やがて力尽きて大人しくなったので、

友雅は、顔を上げると今度は、甘えるようにあかねの首筋に顔を埋めて唇を這わせ始めた。

あかねは、身を硬くして声を出さないようにしている。



「姫君に気持ちを伝えられなくて・・・辛かったのだよ・・・・・・慰めてはくれまいか?」



「・・・嘘・・・他所の姫君の所で・・・慰めてもらっていたんでしょ・・・・・・」



「嘘ではないよ。私の本気は・・・あかねのものなのだから・・・。」



「・・・・・・・・・」



友雅の言葉を聞いても、身を硬くしているだけで、あかねは返事をしなかったが、

自分を抱きしめる腕が震えていることが解り、友雅の不安を感じていた。



「信じてはくれまいか。」



言葉では抵抗を続けながらも、友雅の言葉を聞いたあかねは、その言葉に嘘はないと思う。

それに、心惹かれている相手の言葉は、あかねの心に嬉しく響いたので、

顔を上げると、その首に腕を回してすがり付いていた。



「・・・はい・・・信じます。」



自らすがり付くように抱きついてきたあかねの身体に、友雅は腕を回してそっと抱きしめて、

その耳元で囁く。



「勇気を出して、想いを告げてよかったよ。

自分でも、こんなに気弱な人間だとは思ってなかったので、驚いているが、

あかねが私に強さをもたらすから、もう大丈夫だよ。

ああ、でも、やはりあかねには、勝てそうにないな。

だから、どうか私を見捨てないでくれまいか。」



「そんな・・・絶対にそんなことしません。」



少し膨れた顔で友雅を見上げたあかねの頬に手を添えると、



「では、私の傍らで生きてくれるね。」



そう言って、あかねの唇に優しいキスを落とした。







end




2006.06.30 sanzou








Angel Tears / sanzou 様