記念日

=友雅なのに弱い!?=






「友雅さんのばかぁっ!!」


ぐすんっ
鼻をすすりながらも、私の口から出てくる言葉は、大好きなはずの友雅さんを非難する言葉ばかり。

「ばか・・・おたんこなす・・・いじっぱり・・・秘密主義・・・・・・・・・ぐすん・・・」

「おやおや、酷い言われようだね」
泣きながら責めたてる私の手を、そっと握り締め、友雅さんが、困ったように笑ってる。
その大好きな人の手を、瞬間的に振り払い・・・更に彼を責めたてる。
私の両の瞼から流れる涙は、とどまる事を知らないみたいに、どんどん流れつづける。

「どうして、もっと早く知らせてくれなかったんですか!!」
ふう・・・。
「どうしてと言われてもね」
「私、鷹通さんから聞いて、本当にびっくりしたんですからね」
「・・・・・・・・・・・・」
「3日も前に、内裏で公務中に倒れたっていまさら聞いて・・・。私がどんな気持ちだったと思うんですか、友雅さん」
「たいしたことはないのだよ。皆が大げに言っているだけで」
「大げさであろうとなかろうと、問題はそこじゃないって、気付いてますか? 友雅さん」

「・・・・・・君が怒っているのは、私が黙っていた事に対してだ。そうだね」
「わかっているなら、どうして今まで、知らせてくれなかったんですか」
ふう・・・。
軽く溜息をつき、友雅さんが、まじめな顔で私に向き合う。
「だから先ほども言った通り、たいした病気ではないし、これしきの事で、神子殿を心配させたくはなかった。それだけの事なのだよ。わかっってくれたのかな、私の神子殿は」

もう、本当に屁理屈ばっかり言うんだから。
どうしたらわかってもらえるんだろう。
なんだかこんな時でも、友雅さんは大人で・・・私だけが喚き散らして・・・。
きっと、呆れちゃってるんだろうなぁ。
うん、よし!

「ねえ、友雅さん」
「なんだい? 神子殿」
「もしも、もしもよ。私が倒れて、何日も、友雅さんに会えなかったら、友雅さんはどう思うんですか?」
「そりゃあ、心配で夜も眠れないだろうねぇ」
「・・・・・・私も同じ気持ちだったんです」

そう言ったっきり、黙りこくってしまった私の頬に、友雅さんの暖かい・・・まだ若干微熱の残る指先が触れる。

「それは・・・すまなかったね、神子殿」

私が顔を上げると、そこには眩しいくらいの友雅さんの笑顔があって・・・。
その笑顔に見とれていると、不意に腕が引き寄せられて、気が付いたときには、既に友雅さんの腕の中。
すっぽり・・・まさにそんな言葉が、ピッタリな感じに私の身体が、友雅さんの腕の中に抱きしめられていて・・・。
わ〜ん、心臓バクバクだよ〜〜〜!!
密かに心の中でじたばたしていると・・・・・・友雅さんの顔が・・・どんどん近づいてきて・・・・・・・・・友雅さんの唇と、私のそれが触れるくらいにそっと重なる。

初めてのキス・・・。










どれくらい友雅さんの腕の中にいたんだろう、辺りはもうすっかり、夕闇に包まれている。

「さあ、神子殿。今日はもう遅い・・・そろそろ帰りなさい。」

やさしく諭すように友雅さんが言う。
でも私は、嫌々をするように、首を横に振り、友雅さんにしがみついて、離れない。
困ったような、呆れたような、そんな溜息が、私の頭上に降りかかる。
私は半ば怯えながら、顔を上にあげると・・・・・・そこには友雅さんのやさしい笑顔があって。

「愛しい女性にわがままを言われるのは、なんと心地よいものなのだろうね。神子殿のそんな姿を見せられては、私の自制心が揺らいでしまいそうだよ」
「・・・・・・・・・?」
「わかっては・・・いないのだろうね・・・・・・私の姫君は」

そう言うと、あっという間に、私は褥に引き込まれていて・・・。
覆い被さるようにして、私を見つめる友雅さんの顔がある。

「神子殿・・・・私がこれ以上しないうちに、お帰りなさい」
「イヤです。帰りません」
「神子殿?」
「友雅さん。私だって何も知らない子供じゃありません。こんな時だから、友雅さんのそばについていたい。会えずに心配してるよりは、そばでお世話してる方がずっといい、そう思う事は、いけない事なんですか?」
「私の看病なら、私付きの女房がいるから、心配は要らないよ。それとも神子殿、君が私付きの女房になるとでもいうのかな?」
あっ、友雅さん、ナイスアイディア!!
「それ良いですね! それならずっと、友雅さんのそばでお世話する事も出来るし」

頭上で盛大な溜息が聞こえる・・・友雅さん呆れた?

「私は神子殿を、女房になど、したくはないと思っているのだけれどね」
「女房さんになるのも魅力的だけど、私はもっとなりたいものがあるんです。だから無理かな」
「ほう・・・それは何かな。ここまで言ったのだから、教えてもらえるのだろうね」
「簡単ですよ。私がなりたいものは、一年前からたったひとつだけです」
私は一呼吸置くと、しっかりと友雅さんの瞳を見据え、大切な言葉を告げる。
「お嫁さん。大好きな人のお嫁さんになりたいです」
「神子・・・あかね・・・・・・ど・・・の・・・・・・・・・」

わぁっ、友雅さんのこんな顔はじめて見た。
鳩が豆鉄砲くらったような顔って、こういうのを言うのかな。

「友雅さん。私を、友雅さんのお嫁さんにしてくれますか?」
「それが、神子殿の決めた未来・・・という事か・・・・・・。後悔はしないんだね」
「しませんよぅ」
友雅さんの問いかけが、なんだかおかしくて、笑っちゃった。
でも、私の答えに満足したのか、友雅さんは、いつものようにそっと微笑んでいるだけ。
もしかして、私の気持ち、伝わってないのかな。不安になっちゃった。
でも、それは杞憂だったらしい。だって友雅さんってば
「ああ、やっとこの腕に、神子殿を抱く事が出来るのだね」
なんて、言うんだもん。

あれ・・・?

えっと・・・・・・この言葉の意味って・・・そういうこと・・・だよね・・・・・・・・・。
やだ・・・いまさらだけど、なんだか恥ずかしくなって来ちゃった。
だから私は、両腕を友雅さんの大きな背中に回して、ぎゅっと抱きしめてこう言ったの。



「友雅さん。今日は、友雅さんのお誕生日なんだよ。でも、今日からは、私たちの結婚記念日になるんだね」
って・・・・・・・・・・。





友雅さん、お誕生日おめでとうございます。

というわけで、なんとか仕上がりました。
何度も下書きを書き直して、PCに打ち込むときにも随分修正して、やっとです。
時間をかけたわりには、まとまりのない作品だな〜なんて、思わないでもないのですが、
あかねちゃんに振り回される友雅さんが書きたかったので、そう言う意味では、満足しています。
怒鳴られ、泣かれて、挙句の果てに、結婚宣言までされちゃった日には、友雅さんもたじたじですよね。

何が弱いんだろうって、考えたんですが、思いつかなかったので、友雅さんには病気になっていただきました。(笑)

久々に書いた小説楽しかったです。
もしよろしければ、ご意見・ご感想などお待ちしております。

byさはらゆみ
屋根裏部屋通信局 / さはらゆみ 様