Stalking |
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=友雅なのにストーカー!?= |
「じゃあ友雅さん、行ってきまーす。」 よく晴れた休日のリビング。コーヒーを飲みながら朝刊を読んでいた友雅は、玄関から聞こえた明るい声に顔を上げた。 「あかね?どこへ行くんだい?」 一つ屋根の下に住むようになって3ヶ月、婚約者という関係になったとは言え平日は仕事や学校がある。二人でゆっくりと時を過ごすのはやはり週末の楽しみだ。 今日ももちろんそのつもりでいた友雅だが、ゆっくりしている間にあかねは外出の支度を終えていた。 「あれ、言ってませんでしたか?今日はデートの約束があるんです。」 玄関へ向かうと、あかねが最近買ったブーツを履きながらそう言った。 「聞いてないよ。・・・デートって、相手は誰だい?」 少しむっとしながらそう尋ねる。 「あれ?すみません言ったと思ってたんですけど・・・相手は、あっ」 唐突にあかねの鞄から聞き慣れたメロディが響いた。慌てて携帯を取り出し、メールを確認する。 「えぇっもう着いてるなんて早い・・・!ごめんなさい友雅さん、行ってきます! そんな心配するような相手じゃないですよっ。」 それだけ早口に言うと、あかねはばたばたと慌しく出かけて行った。 「心配するような相手じゃない、と言ったってねぇ・・・。」 はぁ、とため息を吐いた友雅の眉間には、深く皺が寄っていた。 「ごめーん!遅くなっちゃった!」 隣の駅で降りたあかねが、少しヒールのあるブーツで小走りに近づく。 相手は、読んでいた本から顔を上げると、可愛らしく顔をしかめた。 「待たされたわよ。何してたの?」 (なんだ・・・蘭じゃないか。) デート、などと大げさに言うから、また学校で告白されて断れないのかと思い付いて来てみれば。 天真や詩紋のオマケもいなさそうだし、蘭と二人だけならそう言ってくれれば良かったのに、などと一人呟くその姿は、駅前の公衆便所の影にあった。 「うん、なんか友雅さんがゆっくりしてるからつられちゃって・・・ごめんね。」 すまなそうに謝るその笑顔を、トイレの影から眺める友雅。自然と唇には柔らかい笑みが浮かぶ。 女性が見ればうっとりする光景かも知れないが、場所が場所だけに前を通りすがった青年が驚いてビクッと震えた。 「いいけど・・・じゃあ、行こうか。」 そう言って、蘭はあかねを連れて繁華街の方へ歩き出す。 (さて・・・どうするかな。) 急いで飛び出したので財布と携帯電話以外何も持ってきていない。 蘭と二人きりならきっと、いつものコースで買い物とお茶だろう。心配する要素はなくなったので帰ってもいい。 どうせ帰っても予定はないけれど、と考えたところで、あかねを追っていた目が別のものを捉えた。 少し離れたところに立っていた若い男の二人組みが、あかねと蘭の二人を指差して何事か話しながら歩き出したのだ。 どう見ても彼女たちの方へ向かって歩いている。 それを確信した友雅は、足早にその男たちのもとへ向かった。 (まったく・・・油断だらけの隙だらけだな、私の姫君は・・・) 半年前まで宮中で底意地の悪い貴族相手に披露していた、牽制の技術。偶然のように肩を当てて、丁寧に対応しながらも視線で相手を萎縮させる。 まさかこちらの世界に来て、このような方法で役立とうとは思わなかった。 こういった連中はきっと他にも山ほどいるのだろうと思うと、愛しい少女が心配になる。 見目が最高に良いというわけではないが、何せ「この」友雅を虜にした唯一の女性である。 一緒にいる蘭もきっと男受けは良いだろう。 (・・・仕方がないな。) 心なしか愉快そうな微笑をした友雅は、暇な自分が「虫除け」になることを決意したのであった。 |
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〜風雅空月〜 / 今咲梨音 様 |