束縛甘受

=友雅なのにドM!?=



2006/6/1

 束縛甘受

- 友雅なのにドM -





 そろそろ彼女が来る頃だろうか。
 ほどいてあった手首と柱との繋縛を、友雅は自らの手で付け直す。
 こんな柔らかな組紐で拘束など出来るはずがないのに、彼女はそれを実行できていると信じているようだ。
 くす……と、我知らず笑みがこぼれる。
 なんて未熟で愛らしいのだろうか、と。
 僅かに狂気じみた眼差しを宿すようになった龍神の神子と、この廃屋で密会する日々もそう悪いものではない。
 少なくともいままで感じていた怠惰は消え去ったのだから。

「友雅さん! すみません、遅くなってしまって」

 息を切らせながら、ここに友雅を閉じ込めた張本人である龍神の神子のあかねがやってくる。
 友雅が行方不明になったことで、そろそろ藤姫や他の八葉達が心配しだし、あかねがひとりで外出するにも、なかなか警護の目が厳しくなってしまったのかもしれない。

「あぁ……そんなに慌てては、転んでしまうよ? 私はここから逃げられない身なのだから、ゆっくりおいで」

 そう語りかけたにも関わらず、小走りしていたあかねが、朽ちかけた踏み板に足をとられてバランスを崩した。

「ほら、ごらん」

 ばつが悪そうに頬を染め、それでも少しでも早く傍に来たいのかまた足を速める。

「だって、友雅さんに会いたかったの」

 飛びつくように抱きついてくる。
 春に花々が咲き出したようなあたたかで甘い香りが鼻腔をくすぐり、その心地よいこそばゆさに、友雅の口元が柔らかに緩む。

「私も君に会いたかった」

 後ろで縛められているはずの手では、その春の化身のような彼女を抱きしめることもできず、どうにも歯がゆい。

「ねぇ神子殿、これを外しておくれ。君をこの腕で抱きたいのだよ」
「ダメ」
「逃げたりしないから。ね? 今だけ……」
「絶対逃げない? 約束してくれる?」

 何度もそう確認して、あかねはようやく友雅の手首を縛ってあった紐を解いた。

「……痛くなかったですか?」

 申し訳なさそうにあかねが俯く。
 あかねには内緒で日中はほとんど外して自由にしていたのだから、痛いはずもないが、友雅はいたわるように自らの手首をさすって見せた。

「まぁ、なんとか大丈夫だけれどね」
「……ごめんなさい」

 頭を垂れるあかねを、友雅は胸の中に抱きこんだ。

「動くたびに痛んで……そのたびに君を思い出すよ。君は、いつでも私を想ってくれている?」

 わざと罪悪感を持たせているのは百も承知だ。

「あたりまえです! わたしだって本当はずっとここに居たい……」

 こうしてあかねの中が自分でいっぱいになってくることに、恍惚とした思いが芽生えてくる。

「友雅さんを誰にも見せたくない! 友雅さんを独り占めしたい! わたし……友雅さんにこんなことして、どうかしてる……わかっているのに」

 連続する怨霊との戦いで疲れ果てた友雅を、休憩という名目でここに連れて来て、柱に縛り付けていったのは、この龍神の神子なのだから。
 非力な女の慣れぬ手での縛めや拘禁など、どうということはない。逃げようと思えばいくらでも逃げられる。
 けれど友雅はそれをしなかった。

「嬉しいね……君がそんなにも私に想いを寄せてくれていたなんて、知らなかったよ」
「ごめんなさい……」

 謝罪するあかねの唇に、そっと人差し指を押し付けた。

「そんなことはどうでもいい。ようやく待ちかねた君が来てくれた。ねぇ、神子殿」
「はい……」
「君も私が欲しいのだろう?」

 耳元で吐息を混ぜてそう囁くと、あかねの身体からとろけたように力が抜けてゆく。

「……うん」
「では、私を楽しませておくれ」

 あかねの潤んだ瞳に淫靡な色が滲み出す。

「心配しなくても、逃げたりはしないよ」

 身も心も縛られていることが、心地の良い今は、まだ―――




<END>




友雅祭への投稿作品、その1。
ドMかどうかはわかりませんが、Mと言えば縛られて喜んでる図しか浮かばず…こんな話に(笑)
友雅さん誕生日おめでと。一応、愛はあります(たぶん)。

ルナてぃっく別館 / くみ 様