酔ってます?

= 友雅なのに泥酔!? =




 友雅の誕生日前日、あかねは友雅のマンションにいた。
 友雅にはメールで連絡済だが、今夜は付き合いで食事をしなければならないらしく、帰りが遅いらしい。
 あかねは眠いのを我慢して、テレビや雑誌を見たり、と眠気をやり過ごそうとしている。
 その努力は、12時になったらすぐに友雅に「誕生日おめでとう」と言うためだ。こういうことを考えるのは、あかねらしい。
 だが、あと30分でその時間がくるのに友雅本人が帰ってこない。

 あかねはため息をつき、諦めかけた時、玄関から物音がした。
「ただいま」
 リビングに入ってきた彼は、スーツ姿で眼鏡をかけている。
 眼鏡をかけていても、端正な顔つきは変わるわけもなく、美しい。
「おかえりなさい、友雅さん」
と、友雅の胸に抱きついたあかねだったが、すぐに離れて友雅の顔を見た。
「友雅さん、すごくお酒臭い」
「嫌?」
 彼は、眼鏡を外しリビングのテーブルに置きながらあかねに尋ねた。
「嫌じゃないけど……気になります……って?えっ!ちょっとっ!!」
 友雅はその返事を聞くと、あかねのそばへと歩み寄る。そして、あかねをひょいと軽々抱き上げ、そのまま寝室に向かった。
 途中、あかねが暴れたがそんなことも構わない様子だ。あかねを優しくベッドへとおろした。
 だが、いつもと様子が違う友雅。
 あかねもそれに気がついているようだ。
「どうしたの?友雅さん」
「ん〜?」
 友雅は自分の腕をあかねの腰にまきつけ、頭をあかねの膝の上へとのせている。いわゆる、膝枕という状態。
 いや、別にこの状態は変なわけではない。
 ただ、この男があかねを寝室まで運んだらすることは……一つしかない。
 それは、あかねを抱くこと。
 いつもあかねを抱きたいと思っている男。どんなに愛していると囁いても、どんなに愛し合っても足りないくらいだっというのが、この男の口癖。
 橘友雅とはそういう人間だ。
 だが、今の友雅には、あかねを抱こうという意思が見られない。
 いつもなら、あかねが抱かれるのを嫌がってもキスをしたり、耳元で愛を囁くくらいはしているはずだが……おかしい。
 風邪でもひいて……いるようには見えない。顔色も悪くない。
 むしろ、あかねの膝上にある顔はずっと笑みを絶やさず、とても幸せそうなのだ。
「…………友雅さん、もしかして酔ってる?」
「ん〜?酔ってないよ」
とは、言ったものの、実際はそれしか考えられない。
「のど渇いてるでしょ?お水、持ってくる」
 あかねは友雅から離れようとするが、彼の腕は緩める気配がない。
「友雅さん、離して?」
「やだ」
 そういう彼はまるで子供のようだ。
 声にもいつもの色っぽさはない。
 あかねはその友雅を見て可愛い、と微笑んで彼の艶やかな髪を撫でる。
「眠い?」
 彼女の問いかけに友雅は頷いた。
「じゃあ、スーツは脱がないと」
 そうなのだ。ネクタイは少し緩めてあるが、スーツ姿のままあかねを抱き上げ、あかねの膝枕で横になっているのだ。
「ん〜?このままでいい」
 そう言って目を擦る友雅。
 こんな友雅さんなんてもう2度と見れないのでは…………いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない。このままでいいわけがない。スーツくらいは脱がないと……。
「だめだよ。ちゃんと脱いで」
「……脱がして」
「えっ?」
 友雅は動く気配はない。
「わっ、分かりました。私が脱がします。このままだとスーツが皺になっちゃうし、友雅さん酔ってるから……別にヤラシイこと考えてるわけじゃないからね」
 ……あかねは言い訳がましく友雅に呟く。
 上着のボタンに手を伸ばし、一つ一つ外す。
「ほら、友雅さん、腕」
 右腕を上着から出させ、次は左腕。上着を脱がせるのは難なく成功する。
 その上着をハンガーにかけようとベッド上から離れようとすると、友雅の声がかかる。
「どこ行くの?」
 あかねはその友雅を見ると、思わず頭を撫でたくなるようだった。まるで、幼い子が母親に甘えるような瞳で見つめているから。
「ハンガーにかけないと……すぐ戻るから」
 離れるといっても数歩だけ。それなのに、と自然と笑みがでる。
 こんな友雅さんは初めて見る。京にいた頃からお酒を嗜んでることは何回もあったけど、酔ったところを見たことないし、そういう話も耳にしたことがなかった。
「あかね〜?」
「ん?あっ、友雅さんお誕生日おめでとう!」
 あかねはベッドのサイドテーブル上の時計を見て気付いた。
 そうだ、これが当初の目的だったのだ。友雅が酔っているので、すっかり忘れていたようだが。
「?あぁ……そうか〜。……あかねぇ」
「ん?」
 友雅が寝ている横に座ったあかね。友雅はあかねの手を握っている。
「プレゼント……欲しい」
「何ですか?高い物はダメだけど、私で買える範囲なら」
「あかね」
「はい?」
「……あかね……がほしい」
「なっ!」
 いつもなら「何言ってるんですか!」と逃げるが……今夜の友雅は、子犬のように可愛く甘えた瞳で……
「キス……して」
「うぅ…………」
 横になっている友雅。あかねは上から顔を近づけ、軽く唇を重ねる。
「…………もっと、頂戴?」
 あかねは顔を真っ赤に染めながらも、友雅の願いどおり深い口付けをしていく。
「んんっ、はぁ……んっ」
「……………………あかね……抱いて?」
「!」



 さぁさぁ、この後どうなったか……それはご想像にお任せしますが……朝、友雅が起きた時の第一声は
「素晴らしいプレゼントだったよ、あかね」
だったとか。


end






blue notepaper/Jin 様